文化間能力の評価方法に関するScarino(2008)の論文を読みました。

Language Teachingという結構有名なジャーナルに掲載されていたScarino(2008)の「Assessing intercultural capability in learning languages: Some issues and considerations」という記事を読みました。
Scarinoはオーストラリアの学者で、最近Liddicoatというオーストラリアの言語文化教育専門の学者と共著で以下のような本も出しています。ちょっと前にこの本の第2章だけ読んでみましたが、言語教育でどう言語や文化が定義されてきたのかがうまくまとまっていて、わかりやすかったです。

  • Liddicoat, Anthony J., and Angela Scarino. Intercultural language teaching and learning. John Wiley & Sons, 2013.

Intercultural learningは最近のはやりですが、この「intercultural」は日本語でよく「文化間教育」と訳されることが多いようです。ただ、この英語の「inter-」は「異なる」という意味を含んでいるわけではなく、「文化と文化の間」という意味なので、「文化間教育」といったほうが正確な気がします。

ちなみに前に紹介したKramschなどは「intercultural」という言葉も「ある文化」と「ある文化」の間に学習者を置くというイメージを彷彿させるといい、「intercultural」という言葉自体を好んでいないようです。現在の学習者、2つの固定的な文化だけに限らず、複数の言語をはじめとするsymbolic forms(詳しくはこちら)を行ったり来たりするので、「inter」という表現はそぐわないということだと思います。

ちなみに標題の論文では、この文化間能力の評価方法について議論していて、以下の評価サイクルを提示しています。

Conceptualising(概念化) –> Eliciting (抽出) –> Judging (判断) –> Validating(妥当性の確認)

つまり、評価したいものの概念をはっきりさせ、概念に沿うものを学習者が行った行動・考察などから抽出し、それについて判断を下し、そしてその判断が妥当だったかを確認する、という流れらしいです。

「ええ、それだけ?」と正直思ってしまいましたが、Scarino本人も言っていますが、これはまだまだ未完成なたたき台で、何もないよりこういうフレームワークがあったほうがいい、ということでしょう。確かにただ「評価した」というより、「この4つのプロセスを通して評価した」というほうがまだ説得力はある気がします。