【Lantolf and Pavlenko(2008)の論文】社会文化理論(socio-cultural theory)と発達の最近接領域(zone of proximal development (ZPD))について

Lantolf and Pavlenkoの論文について

社会文化理論(socio-cultural theory)は応用言語学関連の論文などでと時折耳にする理論です。といっても、あやふやなところも多いので、以下の短い論文を読んでみました。

  • Lantolf, James P. and Pavlenko, A. (2008) Sociocultural Theory and Second Language Acquisition. Annual Review of Applied Linguistics. 15, p. 108-124

Lantolfはsocio-cultural theoryでよく名前を聞きます。(以下の本も出しています。)Pavlenkoは前紹介した感情に関する本の作者です(詳しくはこちら)。

  • Lantolf, James P. (ed.) (2000): Sociocultural Theory and Second Language Learning. Oxford: Oxford University Press.

 

ヴィゴツキーの研究

社会文化理論はロシアの心理学者ヴィゴツキ―の研究に端を発するものだそうです。ヴィゴツキーは心理学や教育学でもよく名前を聞きますね・・・。

  • Vygotsky, L.,  (2001). 思考と言語. 原著1934 年. 柴田義松訳

この「思考と言語」もいつかちゃんと読みたいです。

 

社会文化理論の目的と思考・社会的生活をつなぐ「媒介物」

前置きが長くなりましたが、以下は冒頭の論文を一部参考に、社会文化論について自分の理解した範囲でまとめたものです。

社会文化理論の目的は、人々が自分たちの頭を使って、どう日常の課題を遂行しているかを理解することだそうです(p.108)。

人の思考と社会的生活がどう関係しているかを調べることかと思います。

 

また、そのときに大切なのは、この人の思考と社会的生活の2つをつなぐ「媒介物」が必要だということです。

媒介物の代表的なものは「ことば」です。

 

私達は、世界(対象)とかかわるときに、直接かかわるのではなく、言葉のような「記号」や「道具」を媒介して世界とかかわっています。

例えば、私の思考も「言葉」という「記号(sign)」や、「ブログ」という「道具」を介してしか見せることができません。

つまり、こういった媒介物なしには社会とかかわることができないということだと思います。

 

zone of proximal development (ZPD)

また、ヴィゴツキーは習得についてもzone of proximal development (ZPD)というのを提唱しています。

これは「発達の最近接領域」とも訳されるようですが、

私は子供や学習者が、大人や教師等の手を借りて発達できる伸び幅みたいなものだと理解しています。

例えば私が太極拳を習い始めたとします。

自分でもある程度は学べるかもしれませんが、上手な人の助けを借りると自分一人でやるよりもっと上手になるかもしれません。

ただ、「助け」であればなんでもいいというわけではなくて、上手な人に超上級の業を教えられても、初心者の自分にはできるわけがありません。

初心者でも学べるような範囲の「助け」が必要になります。この自分一人でできる幅と、上手な人に手伝ってもらって到達できる間のことをZPDと言っています。

ZPDにもあるように、社会文化理論の特徴としては、学習について考える際に、一人一人の人が他者とどう相互に交流し、学んでいるかというインターラクションのプロセスに注目していることが挙げられると思います。

 

まとめ

前回の記事でもここ十数年は応用言語学はsocial turn(社会的方向転換)をして、社会的なものに着目していると書きましたが、この理論もその流れを汲むものだと思います。といっても、この理論自体が変化もしているみたいなので、時間があれば追ってみたいですね・・。