Miller (2012)のAgency・言語学習・多言語スペースについての論文を読みました。

Elizabeth Miller (2012)の以下の論文をよみました。

  • Miller, E. (2012) Agency, language learning, and multilingual spaces.Multilingua. 31(4), 441-468.

この論文を読むまで彼女のことは知らなかったのですが、Agencyについてこんな本も編者として出版しているみたいですね。

  • Deters, P., Gao, X., Vitanova, G., & Miller, E. R. (Eds.). (2014). Theorizing and analyzing agency in second language learning: Interdisciplinary approaches (Vol. 84). Multilingual Matters.

この論文は実は1年前ぐらいに読んだのですが、そのときはいまいち分からずにいて、どういうことだろう??と思っていたのですが、今回Blommaertの本を読んだ後、読み直してみると、言いたいことが自分なりに理解できた(ような気がして)、すっきりしました。

Agencyも訳すのが難しい言葉の一つですが、日本語で近いのは「主体性」かなと思います。最近は子供や学習者がどうやって主体的に学習しているのか、言語を使っているのかなどを扱った論文が増えています。

ちなみにagencyに関する論文では、主体性というのは、言説的・社会的・歴史的な影響を受けるというのが通説のようです(今回の論文でもそうでした)。つまり「英語を勉強しよう」など、自分の意志が働いている主体的な考え・行動も、「将来的に英語ができると便利だ」や「現在の社会における英語の地位」などといった社会・歴史的影響を色濃く受けるということです。

この論文ではそのagencyを研究するのに「agency of spaces」という言葉を使っていて、これが1年前には意味分からずにいたのですが、読み直してみて「同じように言葉を使っていても、場所が変わると違う意味を持つようになる」という意味なんだなと思いました(くわしくはこちら)。例えば、英語がちょっと上手な子どもが日本だと「すごいねー」と褒められてプラスのイメージを持たれていたとしても、英語圏の学校にいくと「English as a second language」で「英語ができない」「日本語アクセントで分かりづらい(マイナスの意味で)」とかマイナスで見られることもあると思います。つまり場所によって同じ言葉でも、持ってる意味が変わるということです。

今回の論文では、アメリカに移民し、小規模ビジネスを経営している成人学習者18名のインタビューを通して、英語学習について彼らがどのように語っているかをmicro-analysisというやり方で分析していました。

結果としては、これらの学習者は英語の権威は認めているもの、実際の現場では多言語話者である自分を前面に出して、ビジネスを円滑に進めようとしていたりすることもあったと言っていました。前回記事で紹介したCanagarajahの講演でも言っていたことと似ているのかなと思いました。

また、分析方法についてですが、最近はインタビューを「(客観的な)リサーチの手法」ではなく、「social practice(社会的実践)」(つまりインタビューする側とされる側が組み立てていく会話)とみる立場が増えているようです。この論文でも成人学習者だけでなく、それに応答する研究者自らの声も分析対象にしていたのは興味深かったです。