言語政策等専門のAnne Pauwelsの多言語主義と言語学習に関する講演を視聴しました。

特にオーストラリアの言語政策に詳しいAnne Pauwelsの就任講演(inaugural lecture)を視聴しました。

彼女は2011年頃にロンドン大学SOAS校に移ったそうですが、そのときの講演です。
私の大学でも新たに教授(professor)職に就く人は、inaugural lectureをしています。inaugural lectureは大学全体に自分の研究の紹介をするという意味合いが強く、専門的な込み入った話はあまりしないので、楽しんで見ることができます。

  • Pauwels, Anne (2011) “Politics of Multilingualism and Language Learning: Who Benefits?” at SOAS, University of London on 10 October 2011)


この動画では言語とグローバライゼーション、大学の言語教育をテーマに話していました。

まず最初に、Pauwelsは現在の多言語主義について概観していました。

最近は「多言語主義が規範」とも言われ、「モノリンガリズム(単一言語主義)」のほうがむしろ見つけるのが難しいと言われています。経済誌エコノミスト(だったと思います)では、ニューヨークでは800もの言語が話されているという記事もあったそうです。ロンドンでは230もの言語が話されているといわれています。

どのレベル(国レベル、市レベル、コミュニティレベル、個人レベル)で考えるのかにもよるかと思いますし、方言をどう考えるかなどにもよると思いますが、こういう数字はインパクトがありますね。

個人のレベルでも、様々な場所に移動し、複数の言語を使って生活している人が増えています。「複数の言語を使って」というとすべてが流暢に話す人のように聞こえますが、そうではなくて、日常会話レベル、サバイバルレベル等、レベルは様々だそうです(truncated(不完全な), fragmented(断片化した)というような言葉を使っていました)。

また、これに伴い、学校で学ぶ言語と、家庭で話す言語が異なる人も増えています(いわゆる「継承語学習者(heritage learners)」や「community language learner」と呼ばれる人たちです)。
つぎ、ここでこういった現実を大学の言語教育は反映しているのだろうかとPauwelsは問いかけます。

Pauwelsのオーストラリア、英国、スウェーデン、ドイツ、ベルギー等で行った調査によると、そうではなかったそうです。

大学で教えられている言語は、フランス語やドイツ語、中国語などで、コミュニティで話されている言語は高等教育で教えられていないことが多いそうです。

例えば、オーストラリアだと、イタリア語、広東語等のcommunity language(コミュニティで話されている言語)のコースを提供している大学は少ないようです。それは他の場所もしかりで、英国でも、ウルドゥー語やパンジャーブ語、ベンガル語などのロンドンでよく話されている言葉は、高等教育ではほぼ学ぶことができないそうです。ドイツでも、トルコ移民が多いことからトルコ語を話す人は多くいるのですが、高等教育でトルコ語の学位を提供しているところは少ないといっています。

ちなみにベルギーではフラマン語とフランス語との間の悶着があった(ある)経緯から、そもそも言語に関する調査は禁じられているのでできなかったといっていました。

Pauwelsは、大学の言語教育が、コミュニティの現状を反映する必要があるのかどうか考える必要もある、と述べていました。

最後に、この動画では現状の言語教育についての問題提起をしていました。

言語教育では、モノリンガリズムに基づいたクラスで、ネイティブスピーカーになることを目標に、一から外国語を学ぶといった意味合いが強いため、community language learnerのように家庭等である程度言語を学んだ人には対応しきれていないのではということも言っていました。

今後、こういった学校外で言語を学び、複数の言語を話す人が増えてくることから、最後には言語教育は「ネイティブスピーカー」を目標にした従来の方法を続けていていいのだろうかと疑問を投げかけていました。

 

  • Pauwels, Anne. Language Maintenance and Shift. Cambridge University Press, 2016.



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