翻訳者トレーニングでのコーパスの活用に関するオンラインワークショップに参加しました③

一昨日からのワークショップの備忘録です。今回で最後です。

このワークショップの最後は、ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツのSilvia Hansen-Schirraの「Tools in Corpus Analysis」という講演でした。

  • Prof Dr Silvia Hansen-Schirra. Tools in Corpus Analysis. IATIS Online/Onsite Training Event 14 April 2015. Cologne University of Applied Sciences

Hansen-Schirraは以下の本も出版しているようです。

  • Hansen-Schirra, Silvia, Stella Neumann, and Erich Steiner. Cross-linguistic corpora for the study of translations: Insights from the language pair English-German. Vol. 11. Walter de Gruyter, 2013.

 

この講演では、コーパスというとよく語彙やコロケーションに使われますが、タグ付きコーパス(Annotated Corpus)を使って、文法上の翻訳の問題にもコーパスが使えるのではと言っていました。

ちなみにタグ付コーパスとは、付加情報が付いたコーパスのことです。

例えば、「私は今日大学へいった」という文がコーパスにあったとすると、タグ付コーパスでは、「私」「大学」という単語に「名詞」、「は」「へ」という文字に「助詞」、「いった」に「動詞」という情報が付与されていたりします(付加される情報はコーパスにより異なります)。

この講演では、このタグ付コーパスを使うことにより、文法構造に関する翻訳上の問題を正確にかつ迅速に取り扱えるようになるといっていました。その例として、以下のようなコーパスを使ってわかったドイツ語・英語の翻訳上の特徴を挙げていました。

  • 英語からドイツ語の翻訳では、ドイツ語から英語への翻訳よりも、動詞の名詞化(consolidateでなくconsolidationを使うなど)が増える。
  • 「It is Tom who told me this」や「It is from Jonny that I heard it」といったような分裂文(cleft sentence)(いわゆる強調構文)はドイツ語で表現するのは難しく、ドイツ語翻訳では違う表現を使う場合がある。
  • 同じく、「this problem is difficult to solve」や「her explanation is easy to understand」のような、主節の主語(this problem/her explanation)が文中の不定詞(solve/understand)の目的語であるようなobject-to-subject raising(目的語から主語への繰り上げ)もドイツ語では表現しづらいため、ドイツ語翻訳では別の表現になる場合がある。
  • ドイツ語は英語に比べ受動態のバリエーションが多いため、ドイツ語から英語の翻訳では、ドイツ語では受動態のものも能動態で訳されることがある。

私はドイツ語が分からないので、この結果がドイツ語・英語の分かる人の感覚とあっているかは分かりませんが・・・。今度ドイツ語話者にあったら聞いてみたいと思います。