言語学習のecological(生態学的)な視点について③:アフォーダンス(affordance)について

参考にした本

前回の続きです↓

  • van Lier, L. 2000. ‘From input to affordance: social-interactive learning from an ecological perspective’. In J. P. Lantolf (ed.), Sociocultural Theory and Second Language Learning. Oxford: Oxford University Press, pp. 245–59

ecological(生態学的)な視点では「アフォーダンス(affordance)」という言葉がキーワードの一つとして使われることが多いようです。アフォーダンスは知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソン(J.J. Gibson)の造語で、デザイン・心理学などでも使われることが多いようですね。

 

アフォーダンスの定義

上記のvan Lier(2000: 252)によると

“a particular property of the environment that is relevant-for good or for ill-to an active, perceiving organism in that environment”
(有用かそうでないかは問わず、ある環境に存在するアクティブで知覚できる有機体にとって関係のある環境の特定の特性)

だそうです。

 

「affordance」の「afford」という動詞はそもそも「提供する、与える」という意味で、「環境が人間に与えてくれるもの」ということらしいです。

 

アフォーダンスの例

これだけだと、私にはまったく意味が分からなかったのですが、この論文に出されていた例を見ると少しわかってきました。

 

例えば、「木の葉っぱ」があったとします。これ自体は環境に存在するモノです。

ただ、これも有機体である「毛虫」にとっては「食べ物」となり、同じ有機体である「クモ」にとっては「日よけ」となり、シャーマンなどの呪術師にとっては「薬」ともなります。

ある「木の葉っぱ」というモノには無限の価値が含まれていますが、「毛虫」「クモ」「シャーマン」など有機体はその中からいくつかの意味・価値(「食べ物」「日よけ」「薬」など)を選び取っています

この有機体(「毛虫」「クモ」「シャーマン」)と、ある環境にあるモノ(「木の葉っぱ」)の一部の特性(「食べ物」「日よけ」「薬」など)との間の関係性のことを「アフォーダンス」と呼ぶようです

そして、このアフォーダンスというのは、「木の葉っぱ」の特性でも、「毛虫」「クモ」「シャーマン」など有機体の特性でもなく、あくまでこの2つの関係性の中で生まれる特性になります。

なので、何が「アフォーダンス」になるのかというのは、有機体が何をし、何を欲し、何を有用と思うかによって変わるといっています。

 

生態学的(ecological)視点からみる言語

ecological(生態学的)な視点によると、言語も人間が保有する「モノ」ではなく、ある環境での人間との関係性のなかで様々な意味・価値を有するものだといっています。

これは私の例ですが、同じ「寒いね」と言う言葉でも、朝、友人にであった直後に言えばただの「挨拶」、クーラーのガンガン聞いた部屋で言えば「クーラー消して」という間接的な要求にもなり得ます。

言葉の意味というのも、そのある環境における関係性の中で生まれてくるということだと思います。

van Lier (2000:253)によると、人間にとっての言語というのは、動物にとってのジャングルと似たようなものなのではないかといっています。

動物は、ジャングルを「保有」していないですが、ジャングルでどう生活し、ジャングルをどう使えばいいのか知っています。

それと同じで、人間も言語を「保有」していませんが、どう使い、生きていけばいいのか知っているといっています。

 

まとめ

アフォーダンスという概念は日本語だとなかなか把握しづらい概念のような気がしますが、この記事がお役に立てれば幸いです。