秋田の国際教養大学の学生を対象にした語用論的能力向上についての論文を読みました。

少し前の記事International Review of Applied Linguistics in Language Teachingの2014年第52巻(2)の「English-medium education in the global society」という特集号を紹介しましたが、今回はその中の1つの論文を読んでみました。

  • Taguchi, N. (ed.) (2014). Pragmatic socialization in an English-medium university in Japan. International Review of Applied Linguistics, 52(2). 157 – 181.

執筆者は、カーネギーメロン大学のNaoko Taguchiです。前も紹介しましたが、語用論関係で幅広く執筆しています。

  • Taguchi, Naoko. Pragmatic competence. Vol. 5. Walter de Gruyter, 2009.
  • Taguchi, Naoko. Developing interactional competence in a Japanese study abroad context. Vol. 88. Multilingual Matters, 2015.


この論文では、英語で授業を行うことで有名な秋田の国際教養大学の1年生48名の語用論的能力の向上を調査していました。調査方法は、4月、7月、12月の3回に分けて行われた口頭のDCT(Discourse Completion Task)です。

結果としては、インフォーマルな場面で意見を言う能力は大きく向上したのですが、フォーマルな場面でのそれはあまり伸びが見られなかったといっていました。

英語でも、日本語でいう敬語にあたるような、丁寧な表現や間接的な表現があるのですが、学生はそういった社会文化的側面にはあまり注意が言っておらず、教師に何か要求するときにも、直接的な言い方(I want to…など)をすることが多かったようです。

実際に教えている教師7名へのインタビューやクラス見学などもしたそうですが、それによると、教える教師側は、日本の学生はシャイで自分の意見を言わない学生が多いため、そういった社会文化的側面を強調するよりも、多少失礼な言い方になったとしても、まず自分の意見を言わせることを重視している人も多かったようです。実際に学生が教師に対してかなり直接的な表現(shouldやmustなど)を使っている場面も見られたようです。

インタビューを受けた教師は、学生に直接的な表現を使われても、それを「失礼」とは思っていなかったようで、「ネイティブ」の英語の規範とは違う規範を、英語が母語でない学生については受け入れていたようです。(こういった事象は他の研究等でも報告されているそうです。)

Taguchiは、目標言語にただ触れただけでは、語用論的能力を伸ばすのには十分でなく、言語使用の社会文化的側面にも学生の意識を向け、社会文化的側面がいかに相手との社会的関係に影響を及ぼすかを理解させることが語用論的能力の向上に必要なのではといっていました。

この研究対象の学生は入学したての1年生ですが、彼らが今後英語を使って、大学外でも生活していくうえで、フォーマルな場面での言葉づかいを知らないために、本人の知らぬところで不利益を受けてしまうこともあるかもしれません。ただ、「言い方」にこだわりすぎて、何も言えなくなってしまうのも困りものですし、実際にいつ、どの段階で、どう教えるかというのは、いつもながらですが難しい問題かなと思います。