最近の応用言語学のmultilingual/plural turnを批判的に考察したKubota (2014)を読みました。

Kubotaについて

この前のホミ・K・バーバの記事でも少し書きましたが、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のKubotaの以下の論文を読みました。このブログでも何回か紹介していますが、Kubotaはクリティカルペダゴジーやクリティカルリテラシーなど、批判的応用言語学と呼ばれる分野で多数執筆しています。

  • Kubota, R. (2014). The multi/plural turn, postcolonial theory, and neoliberal multiculturalism: Complicities and implications for applied linguistics. Applied Linguistics. 1-22. Doi:10.1093/applin/amu045.

 

multilingual/plural turnに対する批判

この論文では、近年の応用言語学の「multilingual/plural turn」について批判的に論考していました。このブログでも紹介してきましたが、近年は複言語主義をはじめ、多言語・複数言語を使用し、多文化・複文化アイデンティティを形成することについて肯定的に評価する動きが出ています。

ただ、Kubotaは、こういった多言語・複言語主義等を手放しで歓迎するのではなく、これにまつわる力関係やイデオロギーを考える必要があると指摘します。こういった力の関係を意識しないと、無意識にネオリベラリズムなど(詳しくはこちら)の支配的な流れに汲みすることとなり、現実の問題を解決できなくなるおそれがあるといっています。

例えば、少数言語の保持には、その土地や共同体への帰属意識(「rootedness」と呼んでいました)のようなものが大きな力を発します。ただ、この前紹介したハイブリディティの概念やコスモポリタリズムを無批判に受け入れることは、そういった帰属意識を薄め、エリート指向の個人主義を促進することになるのではと警鐘をならしていました。

 

Kubotaの他の著書

Kubotaの著作については日本語でも紹介されているようです。

  • 久保田竜子(2015). グローバル化社会と言語教育 ―クリティカルな視点から(久保田竜子著作選1). くろしお出版
  • 久保田竜子(2015). 英語教育と文化・人種・ジェンダー (久保田竜子著作選2). くろしお出版