David BlockのSLAにおけるidentity研究に関する短い論文を読みました。

David Blockの書籍

David Blockについては何度か紹介しましたが(前回記事①前回記事②)今回はDavid Blockの第二言語習得(SLA)分野のアイデンティティ研究に関する短い以下の論文を読みました。

  • Block, D. (2007). The rise of identity in SLA research, post Firth and Wagner (1997). Modern Language Journal, 91 (issue supplement S1), 863–876

David Blockは、以下のような本も出版しています。数年前に読みましたが、非常に示唆のある本でした。今回読んだ論文も以下の本の内容と重なるところがありました。

  • Block, D. (2007). Second language identities

 

Firth and Wagner (1997)

タイトルの「Firth and Wagner(1997)」というのは、1997年のFirth and Wagnerの「On discourse, communication, and (some) fundamental concepts in SLA Research」という論文のことです。

従前のSLA研究は、母語話者と非母語話者の比較など、「ネイティブ・スピーカー」を規範にして研究をすることが前提となっていたのですが、Firth and Wagnerの論文ではこれに批判を加え、社会的観点を考えることの大切さを述べ、その後2000年代以降の応用言語学研究に大きな影響を及ぼしました。

この前紹介した「bi/multilingual turn」(Ortega, 2013)や「multilingual/plural turn」(Kubota, 2014)も2000年以降の流れを汲むものです。

 

論文の内容

この論文でBlockは、Firth and Wagnerの論文の後、SLA分野のアイデンティティ研究も増加したといっています。ちなみにアイデンティティ(identity)(positioningやsubject positionなどといった用語も使われます)は、ただの個人の主体性(agency)にのみ関連するものではなく、社会構造に密接に関係したものだとBlockは指摘しています。

Blockは、自然習得、外国語教育、留学の3つの異なる場面でのアイデンティティ研究の代表的なものを概観した後で、今後のアイデンティティ研究としては、①社会階級(social class)と、②精神分析学(psychoanalytic theory)を考慮に入れるべきではといっていました。

ちなみにこの2つを考慮した以下の本が数年前に刊行されましたね(詳しくはこちら)。

  • Block, David. Social class in applied linguistics. Routledge, 2013.