言語イデオロギーについてIrvine & Galが提示した「iconization」「fractal recursivity」「erasure」について

  • Irvine, J. T., & Gal, S. (2000). Language ideology and linguistic differentiation. In P. V. Kroskrity, (Ed.),. Regimes of language: Ideologies, polities, and identities. Santa Fe: School of American Research Press, 35-84.
Irvine and Gal (2000)の言語イデオロギーの記号論的プロセス

↑Irvine and Gal (2000)も言語イデオロギーの文献ではよく引用されています。Irvine and Gal (2000)は、言語イデオロギーがどう生まれるのかを、記号論的プロセス(semiotic processes)にして説明しています。

この言語イデオロギーの記号論的プロセスには、「iconization」「fractal recursivity」「erasure」の3つの要素があるので、以下みていきます。

Iconization(アイコン化)

アイコン化は、ある言語的特徴が社会的イメーと結びつけられることです。

Irvine and Gal (2000)の論文で挙げられていた例だと、「Sereer」というセネガルの言語は、言語学者には「原始的」な言語と思われていたようです。この「原始的」と(思われていた)言語特徴が、その言葉の話者も同じく「原始的」なのだと社会イメージに結び付けられるようになったといっています

これは私個人の例ですが、女ことばなどもそれに入るのではないかと思います。つまり、「わ」とか「よね」などという言語的特徴が「女の人らしい」という社会イメージに結び付けられるようになるプロセスをiconizationというようです。

fractual recursivity(フラクタルな再帰)

画像引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/シェルピンスキーのギャスケット

このfractal recursivityは日本語ではわかりにくい概念だと思います。調べてみたところ、フラクタル(fractal)というのは、全体像とその図形の一部が相似しているということを指すようです。例えば、上の図をよくみてみると、全体像の模様と、その中に入っている三角の図形の模様は同じ模様になっています。

Recursivity(再帰)というのは、繰り返し行われることなどという意味ですが、数学などでは定義の中に定義されるものが含まれていることを指すようです。

それで、fractal recursivityというのは、あるレベルでの二項対立が他のレベルでも投影されることを意味するようです。上の図のように、図形の一部が他の場所にも表れたりすることかなと思います。

 

上記のセネガルの例だと、「原始的」というイメージはヨーロッパ言語とアフリカ言語の対比で使われていたのですが、これがセネガル内のWolof語とSereer語という別のレベルで対比する際にも使われるようになったようです。

 

上記の論文で挙げられていたもう一つの例だと、南アフリカのングニ語族(特にズールー語やハウサ語)のクリック音の使用があります。

このングニ語族は「クリック音」という、 コイサン語の特徴である言葉(かなり特徴のある音です)を従来は持っていませんでした。ただ、ングニ語族の慣習では「hlonipha」という「義父の名前を言ってはいけない」などの禁忌が多数あり、そういう禁忌の言葉をいうときに「クリック音」を使うようになったようです。

この場合、「ングニ語」と「コイサン語」という差異が、普段の生活とholoniphaという禁忌の差異という別のレベルにも使われるようになったということで、これをfractal recursivityと呼ぶようです。

女ことばの場合だと、女ことばはもともとは明治時代の女学生が話す言葉として扱われていたそうですが(詳しくはこちら)、明治時代の女学生とその他の人を分けるために使われていた「てよだわ言葉」が、男女間の違いを表すという別のレベルで使われるようになったということかなと思います。

Erasure (消去)

Erasureというのは、言語的特徴と社会的イメージを結びつけるときに、そのイメージにあわないものは無視されるという意味です。

上記のSereer語の例だと、Sereer語は「原始的」とみなされたため、実際のSereer語にある複雑な文法体系など、「原始的」なイメージにそぐわないものは、無視されたようです。

女ことばの例でも、当初は女学生の使っていた「てよだわ言葉」は卑猥な(vulgar)イメージがあったそうなのですが、それは「女らしい」とそぐわなかったためか、そのイメージは切り捨てられます。こういったことをerasureというようです。

 

まとめ

言語イデオロギーの記号論的プロセスとして「iconization」「fractal recursivity」「erasure」の3つの要素を説明しました。

お役に立てれば幸いです。