子供のバイリンガル教育に関するFred Geneseeの講演を視聴しました。

Fred Geneseeの講演

今日はカナダのMcGill大学のFred Geneseeの講演がアップされていたので、視聴しました。Geneseeはバイリンガル教育研究の専門家で、最近は国際養子の研究などもしているようです。

  • FAAPI 2013 – Keynote presentation (2013年9月27日)
    Fred Genesee: ‘Myths and Misunderstandings about Dual Language Acquisition in Young Learners’


今回の講演では、子供をバイリンガルに育てる親からよく受ける質問を挙げた上で、バイリンガル教育に関して多くの人が抱きがちな通念を4つ提示し、それを検証していました。

 

バイリンガル教育に関して抱きがちな通念

①脳は1つの言語に対応していて、2つ以上の言語を学ぶと混乱が生じ、言語習得に遅れがでる(myth of monolingual brain)

端的にいうと、そういうことはないそうです。もちろん、バイリンガルになるためには、ある程度の量、両言語に触れる必要がありますが、モノリン ガルの子どもと同じ量をそれぞれの言語で触れる必要はないそうです。逆にいうと、モノリンガルの子どもは、不要な量のインプットをある言語で受けているともいえるそうです。

バイリンガルに育てる中で、2つの言語を混ぜて話す(code-mixing)ようになるのではという懸念もよく聞かれるそうです。(ちなみに大人で はこのcode-mixingはよくみられる現象です。)ただ、この講演で紹介されていた、バイリンガル の子どもグループを調査した研究では、code-mixingをしていたのは全体の発話量の4.2%にすぎず、しかもその4.2%の中でも、word order(語順)を間違うというのはほとんどなかったそうです(「word order constraint (語順制約)」といっていました。)。

英語と日本語に置き換えて考えると、「私はstudentです」と、英語の単語を日本語の文に入れたり、その逆も多 少はみられるのですが、「私amですstudent」のように文法がぐちゃくちゃに混ざるということはほとんど見られないということだと思います。

Bialystok (2004/2007)などの研究では、バイリンガルの子どものほうが認知的に優れているなどといった結果もでているそうです。

 

②たくさん言語に触れれば触れるほど、上達する。(年少時にはじめればはじめるほどよい)

外国語のクラスは早く始めたほうがいい、早く学ばせるためにはできるだけその言語に触れればいいという意見もよく聞きますが、ただ、Geneseeは、これも地域・環境によりけりで、単純にいうことはできないといっています。

例えば、カナダでは英語とフランス語のimmersion program(数学・社会などの教科を外国語で学ぶ外国語指導方法)で有名ですが、Grade 3やGrade 7など、遅くから英語を学び始めても、Grade 1のころから学んでいた学生と同じぐらいの効果でたという研究もあるそうです。

勿論、これは学校外で英語に触れていたり、カナダにおける英語という言語の地位が関係しているので、他の地域・環境でもこれが当てはまるということは決してありません。ただ、一概にたくさん言語に触れ、幼い時からはじめればいいわけでもないということだそうです。

また、母語がしっかりしている年長になってから言語を学び始めたほうが、母語をいかして学べ、学びが促進されるケースもあるそうです。

 

③子どもの脳はスポンジのように言語を吸収する。

この点については時間切れでこの講演では飛ばしていましたが、言語を学ぶのは簡単なことではないということだと思います(講演では話していませんので、この通念3についてはすべて私の解釈です)。

勿論、子どもは発音などの習得は早いと思いますが、ある言語で日常会話ができたとしても、アカデミックな能力を身に着けさせるのはまた別の話です。

どの程度の言語能力を求めるのかにもよりますが、簡単にバイリンガルになるわけではないというのは、子どもをバイリンガルに育てたことのある人は多かれ少なかれ誰もが思うことなのではないかなと思います。

 

④学習障害を持った子供は、バイリンガルにすべきでない。

学習障害やダウン症の子どもの研究結果を紹介していましたが、いずれの場合も、学習障害やダウン症のバイリンガルの子どもと、学習障害やダウン症のモノリンガルの子どもを比べた場合、どちらも差異がみられなかったようで、バイリンガルにすべきでないという通念には根拠はないようです。

この前のOrtegaの記事でもありましたが、Geneseeも第二言語習得研究の95%はモノリンガルの子どもを対象にしているので、バイリンガルの子どもを見る必要があるといっていました。

 

ご興味のある方は

Geneseeは多数本も出版しています。

  • Paradis, J., Genesee, F., & Crago, M. B. (2011). Dual language development and disorders: A handbook on bilingualism and second language learning. Brookes Publishing Company. PO Box 10624, Baltimore, MD 21285.

バイリンガル教育についての日本語の本では、以下の本がわかりやすいと思います。

  • 中島和子(2016)『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』 アルク.