オースティンの言語行為論(スピーチアクト理論)とは何か:発話行為・発話内行為・発話媒介行為

この記事では、オースティンの言語行為論(スピーチアクト理論)について簡単に説明します。

オースティンの言語行為論(スピーチアクト理論)について

ジョン・L・オースティン( 1911- 1960)はスピーチアクト理論を提唱した学者です。オックスフォード大学で1940年代・1950年代に教鞭をとっていました。

1900年代前半は、「ことばは思考や意志を表現する手段」、「意味を伝達するためのもの」という考えが主流でした。

 

オースティンの功績は、人々が言葉を使って何を行うのか、という言語の社会機能にも目を向けたことです。

オースティンは、言語は事態を述べるものだけではなく、何かの行為を遂行するためにも使われると考えました。

 

例えば、「明日は用事があるんです」という文で考えてみましょう。

これは、文字通りとると、「明日は用事がある」という事実を述べている文です。

ただ、もし「明日遊びにいかない?」という誘いに対して「明日は用事があるんです」といった場合はどうでしょうか?

この場合、単に事実を言っているだけでなく、「断り」という「行為」を行っていると考えられます。

 

もう一つの例を見てみましょう。

何かの大会が行われると、開会宣言が行われることがよくあります。

「ここに〇〇大会の開催を宣言します」と言ったりしますね。

この場合、「宣言します」というのは、事実を述べているだけではありません。

「宣言する」ということによって、まさに「宣言する」という行為を行っています。

 

このように、オースティンは、言語には、意味を伝達するだけでなく、現実社会に働きかける行為としての機能もあると考えたのです。

 

constativesとperformative

オースティンは、事態を述べる文を「constatives(事実認識的発話)」、行為を遂行する文を「performative(行為遂行的発話)と区別しました。

 

constatives(事実認識的発話)というのは、事態を記述・確認・報告しており、真・偽を決められるものです。

例えば、「机の上にコンピューターがあります」という文は、事態を記述しています。実際にコンピューターが上にあるかないかで真偽を決められます。

 

performative(行為遂行的発話)は、その文を述べることで行為そのものが行われるか、行為の一部をなすような文のことです。

文を述べることで行為そのものが行われる例としては、「ここに〇〇大会の開催を宣言します」があります。

「宣言します」ということで、「宣言する」という行為がまさに行われています。

それ以外の例としては、「結婚する」「謝罪する」「拒否する」「宣言する」「名づける」「約束する」「任命する」など動詞をつかった文があります。

なお、オースティンは、「命令する」「忠告する」などの動詞を遂行動詞と呼びました。そして、遂行動詞が含まれる発話は明示的遂行発話(explicit performative utterance)と呼んでいます。

 

performative(行為遂行的発話)な文としては他には以下のような例があります。

  • 早く来なさい(命令)
  • ちょっと来てもらえますか(依頼)
  • すみません。明日は用事があって(断り)

上記の3文のように遂行動詞が含まれていないものは、原初的遂行発話(primary performative utterance)と呼ばれます。

 

発話行為・発話内行為・発話媒介行為

ただ、「constatives」と「performative」は簡単に分けて考えることはできないのも事実です(Austin 1962, p. 94

例えば、「机の上にコンピューターがあります」という文は事態を述べています。

ただ、誰かがコーヒーがなみなみ入ったコップをもって、机に近づいてきた場合は、「気をつけて」という「警告」という行為を示すかもしれません。

 

では、いったい「言語によって行為を行う」というのはどういうことなのでしょうか?

オースティンは、言語行為には、以下の3つの側面があると考えました。

  • 発話行為(locutionary act)
  • 発話内行為(illocutionary act)
  • 発話媒介行為(perlocutionary act)

発話行為(locutionary act)

発話行為とは、要するに何か意味のある文を発話することです。文の「意味」とだいたい同じです(Austin 1962, p. 108)。

相手が聞き取れなかったら、発話行為は成立しません。

 

発話内行為(illocutionary act)

発話内行為とは、発話によって、何らかの行為を遂行することです。話し手の意図と近いと思います。

英語で「locutionary」の前に「il」がついているのがわかると思います。「il」というのは「in」の音韻が変化したものなので、「内」という意味ですね。

つまり、発話の中で行われる行為です。

発話内行為は、聞き手に働きかける力を持っています。この力のことを発話内力(illocutionary force)といいます。

 

発話媒介行為(perlocutionary act)

これは発話によって成し遂げたい目標、または発話によって成し遂げられた結果を指します。

発話媒介行為は、発話によって生じた行為のことで、話し手が意図していなかったような結果を生み出すこともあります。

 

例1:寒いね

上記の説明だとわかりづらいので、2つ例を出して説明します。

(エアコンのきいている部屋で。Aさんはエアコンの温度を下げてほしいと考えている)
A: 寒いね
B: ほんと?エアコンの温度下げようか?
A: ありがとう。
B: (エアコンの温度を下げる)

このような会話がなされたとします。この中の「寒いね」という発話について考えてみます。

 

この場合、「発話行為」は、「寒いね」という意味のある文を発することです。

また、「寒いね」という発話を通して、「エアコンの温度を上げてほしい」という「依頼」という行為が行われたと考えられます。

この依頼は「発話内行為」に当たります。

 

「発話媒介行為」は、Bさんが「寒いね」という発話を聞いて、「Bさんがエアコンの温度をあげたこと」です。

ただ、Bさんがエアコンを消すことも考えられます。この場合、Aさんの意図していなかった結果ではありますが、Aさんの発話によって行われた行為なので「発話媒介行為」になります。

 

例2: 明日用事があって…

次に、「ごめん、明日用事があって」の例で考えます。

A:明日ご飯たべにいかない?
B:  明日は用事があって
A:そっか。じゃ、また今度行こうよ。

このような会話がなされたとします。

 

「発話行為」は、「明日は用事があって」という意味のある発話をすることです。

「発話内行為」は、「明日は用事があって」という発話によって誘いを「断る」という行為です。

「発話媒介行為」は、Aさんが「断り」を理解し、「わかった、じゃ、また今度にしよう」と誘いをやめたという行為になります。

 

まとめ

オースティンの言語行為論(スピーチアクト理論)について紹介しました。

ご興味のある方は原書にあたってみるといいと思います。

  • Austin, John Langshaw. How to do things with words. Oxford university press, 1962.

↑オースティンが1955年に行った講義をもとに、彼の死後に出版された講義録です。12の講義の内容が収録されています。

今回の記事の内容は、この第8章・第9章に当たります。

 

原書は和訳も出ています。

  • ジョン・L・オースティン『言語と行為』坂本百大訳、大修館書店、1978年

 

オースティンについては語用論の入門書でほぼほぼ紹介されていますので、そちらをあたってもいいかと思います。

  • 加藤重広, 澤田淳(編). はじめての語用論 : 基礎から応用まで.  研究社, 2020.3.

 

  • Birner, B. J. (2012). Introduction to pragmatics. John Wiley & Sons.

 

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