Kramsch (2018)の現在の外国語教育における文化の扱いに関する論文を読みました

Claire Kramsch(2018)の論文

Kramschはカリフォルニア大学のバークレー校の教授で、このブログで複数回紹介しています。

文化教育で有名なKramsch (2009)の本の言語教育に関する部分を読み直しました・・・。

今回は彼女の外国語教育における文化の扱いに関する新しい論文を読んでみました。

 

言語、文化、マルチリンガリズム

この論文でKramschは、現在は、人の移動の増加に伴い、言語、文化、マルチリンガリズムという概念も変わってきており、外国語教育でも学習者の背景が多様化し、母語を共有していないことも多いと述べています。

また、現在は「マルチリンガリズムの発明(invention of multilingualism)」と「モノリンガリズムの再発明(re-invention of monolingualism)」という2つの対立した流れがあるといっていました。

 

マルチリンガリズムについての言説はここ10年は溢れていますが、Kramschはこういう複数の言語使用は以前からあったと指摘します。むしろ、今日の「マルチリンガリズㇺ」という用語は、グローバルな時代における多様性、複数性、柔軟性、適応性などを示すイデオロギー的要素があるといっています。

マルチリンガリズムが人口に膾炙する同時に、古い一言語一国家に基づくモノリンガリズムも再出現しているといいます。例えば、アメリカではラテン系の移民の増加を受けて、「英語のみ」の使用を推進する流れがあるといいます。さらに、新たなモノリンガリズムの潮流として、企業があえて、イメージ戦略のために商品などにある言語を使うこともあるといっています。例えばHeller &Bell (2012)の研究では、ケベックのチーズ製造会社が、あえてケベックアクセントのフランス語を使うことで、商品に付加価値を加えていたそうです。

 

外国語教育における文化

Kramschはこういった中で、外国語教育はどうこのような現実を取り入れていくべきか議論しています。

彼女は自分が提唱した「symbolic competence」という概念を上げ、今必要なのは異なる文化の者の問題を解決するのではなく、言葉の言外の意味をくみ取り、相容れない物の見方や力関係にどう対処するのか考え、現実をとらえなおしていく力が必要といっています。

テキストを読む時に、ただ情報としてとるのではなく、これは誰に向かれて書かれたのか、読者との関係性、メッセージの枠組みを読み取り、またその枠組みをとらえなおし、現実を再定義していく能力が必要といっていました。具体的な例もトランプ大統領のツイートをもとにあげていたので、詳しくは原文をご覧ください。2018年8月7日現在、無料でアクセスできるようになっています(リンクはこちら)。