金水敏の「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」を読み直しました。

「ヴァーチャル日本語 役割語の謎」

  • 金水敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』岩波書店. 2003

↑昔読んだ上記の本をいただいたので、もう一度読んでみました。

この本では「わしはわからんのじゃ」などの「老人語」・「博士語」、「好きだわ」などの「お嬢様ことば」、「君、これをしたまえ」などの「上司語」など、特定の人物像を彷彿させるような言葉遣い(金水の言葉では「役割語」)がいつから使われているのか、なぜこういった役割語が生まれたのかを説明しています。

例えば、老人語・博士語の「~じゃ」などのような表現は西日本の方言に広く使われている表現だそうです。この老人語・博士語の由来は江戸まで遡ることができると金水はいいます。江戸時代に「江戸語」が形成されていく過程で、老人層や医者・学者などの職業を持つものは言葉遣いに保守的で上方語的表現を手放さず、「江戸語」を取り入れた若者との言語的に対立があったことがある程度は現実にあったようです。それが歌舞伎や小説に取り入れられ、今日の「老人語」「博士語」まで受け継がれているといっていました。

また、役割語を語る上で欠かせないのが「標準語」の存在だそうです。日本で育った日本語話者なら、その人自身が方言を使っていたとしても、「標準語」話者に感情移入し、非「標準語」話者は周辺・背景的に扱われるといっていました(p. 58)

この本はずいぶん前に読んで、感銘を受けたのを覚えていますが、もう一度読み直しても面白かったです。

 

金水敏の役割語関係の他の文献

金水の他の役割語関係の文献については以下をご覧ください。

役割語についての金水敏の本の紹介