「interactional competence」から「interactional repertoires」へというHallの論文を読みました。

Interactional competenceについて

相互行為能力(interactional competence)については以下の記事をご覧ください。

相互行為能力(interactional competence)について

今回は、このinteractional competenceの概念を再検討したHallの論文を読みました。

  • Joan Kelly Hall (2018) From L2 interactional competence to L2 interactional repertoires: reconceptualising the objects of L2 learning, Classroom Discourse, 9:1, 25-39, DOI: 10.1080/19463014.2018.1433050

 

Hallは1995年にinteractional competenceをcommunicative competenceの一部として提唱した学者で、その後はinteractional competenceについて多く執筆しています。

  • Hall, Joan Kelly, John Hellermann, and Simona Pekarek Doehler, eds. L2 interactional competence and development. Vol. 56. Multilingual Matters, 2011.

2つの学派

Hallはこの論文で、interactional competenceというのは2つの学派から来ているといいます。

一つは言語人類学(Linguistic anthropology)でHymesのcommunicative competenceに連なるものです(詳しくはこちら)。この流れだと、interactional competenceというのは、様々な経験を通して身に着けていく能力で、話す相手や場面によって変化する能力のことです。

もう一つは会話分析(conversational analysis)で(詳しくはこちら)、この場合、interactional competenceというのは、どういうときに話者の交替が行われるのかなど、会話の中の普遍的なルールを探ろうとするものになります。

この2つの違う学派がinteractional competenceを論じるときに混在しているとHallは指摘します。

 

Interactional repertoiresについて

Hallは、「competence」というとどうしても普遍的で変わらないものというイメージがあることなどから、普遍的なルール(universal infrastructure)を指すときは「interactional competence」を使ってもいいが、そのルールを構成する一つ一つのリソースについては、「interactional repertoires(相互行為レパートリー)」という用語を使うべきではと提案していました。

これは私の理解ですが、例えば、「interactional competence」の研究として、どう学習者が、文のすべてを言わない「不完全文(incomplete sentences)」を使っているかという研究があったのですが(Taguchi 2014)、こういった「不完全文」のようなリソース(学習対象となるもの)を「interactional repertoires」と使い分けたほうがいいと言っているのかなと思いました。

「competence」はずっと変わらないイメージもありますが、この「repertoires」という用語を使うことによって、こういったリソースが時と場合によって変化しうるということ、またその習得過程も単一のものではなく、個々人の経験によって異なることを表せるとHallは言っていました。