「ジェンダーで学ぶ言語学」読了①。女ことばとイデオロギーの関係は興味深いです。

中村(編)(2010)「ジェンダーで学ぶ言語学」を読みました。

  • 中村桃子, ed. ジェンダーで学ぶ言語学. 世界思想社, 2010.

中村桃子の編集で、0章、1章、12章以外は執筆者は中村以外の人です。中村桃子は他にも女ことば関係でいろいろな本を書いています。半年ぐらい前に以下の二冊も読みましたが、なかなかおもしろかったです。英語でも論文を出しているので有難いです。

  • 中村桃子. 女ことばと日本語. 岩波書店, 2012.
  • 中村桃子. 翻訳がつくる日本語-ヒロインは 「女ことば」 を話し続ける, 白澤社, 2013.

中村の立場は構築主義という立場で、ジェンダーに関するイデオロギーも、ジェンダーアイデンティティーも言葉を通して作られるという立場をとっています。前紹介したバトラーの影響をかなり受けているとおもいます。中村によると、「女」という属性を持っているから「女ことば」を話すのではなくて、「女ことば」について話したり(例:「女は丁寧に話すべき」というなど)、実際に「女ことば」と呼ばれる表現を使ったりすることによって、「女」というアイデンティティーやイデオロギーがつくりあげられていくといっています。第0章・第1章は中村の考えを分かりやすくまとめたような感じでした。

第2章の金水は、役割語や指示詞の研究でとても有名な学者です。数年前に講演にも行ったことがありますが、絶妙に冗談を交えながら講演されていて、とてもおもしろかった記憶があります。この本では、男ことばの歴史について書いていました。近代の「ぼく」「おれ」「行くぞ」などの男ことばは、江戸語を土台に、書生ことば(はじめは男性専用というわけではなく女学生も使っていたが、後に分離)を通して形成・固定化されるようになったと言っていました。

第3章の熊谷は、メディア、翻訳、教育等によって、方言(特に東北方言)のイメージが再生産されているかを書いていました。翻訳の例では、「風とともに去りぬ」の「黒人」のお手伝いさんや、「アイ・ラブ・ルーシー」や「奥さまは魔女」の中の下品な女性がダサい奥さんが「東北弁もどき」で訳され、東北方言のマイナスのイメージの再生産につながっているのではという指摘もありました。ポストコロニアリズムの翻訳研究で、翻訳が植民地化された人々のイメージ(ステレオタイプ)を普及させるのにかなり積極的に関与していたという指摘があるそうですが、それとも共通しているのかなと思いました。

続きもメモしておこうと思いましたが長くなりそうなので次回にします。