文化間能力の評価方法に関するScarino(2010)の論文を読みました。

Modern Language Journalという応用言語学では有名なジャーナルに、前紹介したScarino(2008)の論文の続きが出ていたので読んでみました。

この論文ではScarinoは言語や文化の捉え方の変遷に触れながら、文化間教育の評価について述べています。

言語・文化の捉え方の変遷については、前も紹介した下記の本で詳しく述べられています。

  • Liddicoat, Anthony J., and Angela Scarino. Intercultural language teaching and learning. John Wiley & Sons, 2013.

Scarinoによると、文化教育(cultural orientation)は文化についての知識を得ることですが、文化間教育(intercultural orientation)では、学習者が文化についての知識を得るだけでなく、言語・文化を学ぶ中で自分のアイデンティティーまでも変容させること目指しています。(p.324)。

(Scarinoは「learning」じゃなくて「orientation」という言葉を使っていましたが、その意図はわかりませんでした。上記で「文化教育」「文化間教育」と書きましたが、これは誤訳かもしれません。)

さて、言語教育の評価ですが、従来の評価方法では、より知識のある者(教師)が、学習者の言語や文化に関する「知識」等を評価していました。このような知識の「内容」を「客観的」に測るやり方は、上記の文化間教育では限界があるとScarinoはいっています。

Scarinoによると、文化間教育では、複雑かつ変化を伴うものなので、その評価も、客観的に測るものではなく、教師・学習者がどう文化・言語を理解しているか等を解釈していくものになるのではということです。

つまり、従来とは違うやり方で評価を捉える必要があり、すなわち、評価するデータをどう抽出するか、また集めたデータをどう理解し、判断し、その妥当性を評価していくかという点でも、新しい理解が必要になってくるといってます。

集めるデータの例として(p.328)、会話の分析や学習者の対話の考察などの一過性データから、プロジェクト、セルフレポート、ポートフォリオなどの継続的なデータを挙げていました。研究のデータ収集と分析と似ているそうです。

彼女は、文化間教育の評価は、評価そのものを探究のプロセスと考えるのがいいのではと述べています。つまり、評価の対象となるデータを収集・分析することにより、教師や学習者が自らの理解がよりわかるようになり、またそれにより学習が推進されると言っています。

言うは易し(いや、言うのも易しくないですね・・・)、行うは難しです・・・。