インドネシアのジョグジャカルタの大学生の間の言語状況の変化に関するSmith-Hefnerの論文を読みました。

インドネシアは多言語国家で、国の言葉としてインドネシア語が構築され使用されており、言語政策や社会言語学の視点からも非常に面白い地域です。

今回はそのインドネシアのジャワ島の中部都市ジョグジャカルタの大学生間のジャワ語からインドネシア語への言語使用の変化に関する論文を読みました。著者のSmith-Hefnerはボストン大学の人類学者で、最近はジャワのムスリムの若者のジェンダー意識などについて調査しているようですね。

  • Nancy J. Smith-Hefner (2009). Language Shift, Gender, and Ideologies of Modernity in Central Java, Indonesia. Journal of Linguistic Anthropology, 2009, Volume 19, Number 1, 57-77.

この研究は、1999年に行ったジョグジャカルタの名門大学Gadjah Mada University(ガジャ・マダ大学)とState Islamic Universityの学生計206名に行ったアンケート調査と、長期間にわたって行ったその他のインタビューデータやエスノグラフィー調査に基づくものです。

アンケート調査結果では、若者の間で「地域語」であるジャワ語から「国の言葉」であるインドネシア語への移行がみられたようです。

アンケート調査で祖父母とインドネシア語を話すといった学生は11%、両親とインドネシア語を話すといった学生は25%、自分の子供とインドネシア語を話したいといった学生は62%にのぼったそうです。

(ただ、アンケート調査なのでどこまで実際の言語使用を反映しているかはわかりませんし、またジャワ語とインドネシア語を混ぜて使うケースも多いかと思うのでデータの解釈には注意が必要かと思います。)

その傾向は特に女性に高かったそうで、女性のほうが言語変化をしやすいという先行研究とも一致するものだったといっていました。

ジャワ語は日本語やチベット語、韓国語と同じく敬語体系が複雑な言語で、日常語であるngoko体は話せるものの、フォーマルな話体であるkrama体には苦手意識やネガティブな感情を抱く若者が多いようです。

それに比べ、インドネシア語は1970年代~1980年代には堅い、フォーマルな言語というイメージがあったそうなのですが、現在はフレキシブルでフラットな言語と感じる人が多いようです(p. 64)。

こういった言語への態度もインドネシア語の使用の増加につながる要因の一つとして挙げられていました。

そういえば、以前読んだ論文(名前は忘れてしまいました・・・)で、学校でジャワ語の授業もあるそうですが、そこではkrama体を学ぶようで、ngoko体を日常会話で話しているにもかかわらず、「ジャワ語が苦手」「ジャワ語は話せない」と思う学生も多い、と書いてあった記憶があります。

インドネシアの言語状況については日本語でも本が出版されているようです(読んでいませんが)。

  • 森山幹弘・塩原朝子 (2009) 『多言語社会インドネシア–変わりゆく国語、地方語、外国語の諸相』 めこん出版