翻訳学における等価の問題について①

翻訳通訳学でよく問題になる「等価(equivalence)」の問題について、入門書紹介の記事でも紹介した、『翻訳学入門』を参考に調べてみました。参照したのは、第3章(p. 56-84)です。(下記の記載も左記のページを参考に、私が理解した範囲で記載しています。詳しくは原文をご覧ください。)

  • ジェレミー・マンディ(著) 鳥飼玖美子(監訳). “翻訳学入門.” みすず書房 (2009).

原文はこちらです↓(新しい版ですが)

  • Munday, Jeremy. Introducing translation studies: Theories and applications. Routledge, 2016.

 

等価(equivalence)の問題

等価の問題を提起したのは、前に紹介したローマン・ヤーコブソンのようです。

ヤーコブソンは、言語間の各単語・慣用句などの間が完全に同じにあることはない(完全な等価はない)といっているそうです。例えば、「house」という言葉は、英語では中性ですが、「maison」とフランス語では女性名詞になります。英語ではこの「女性名詞」というところは伝えることができません。日本語の「兄弟」というのは英語ではbrothers and sistersになり、日本語の持つ「older brothers and younger brothers」といったようなニュアンスは出てきません。

ヤーコブソンは、翻訳というのは、個々の単語・慣用句を置き換えるのではなく、その原文が伝えたいメッセージと同じもの(等価なもの)を伝えることだといっているようです。

では、原文が伝えたいメッセージと同じものとは何なのか、この意味や等価の問題が1950年代・1960年代の翻訳理論家たちの間で議論されるようになります。

ナイダ(Nida) (1964, 1969)

Eugene Nidaは聖書の翻訳に携わっており、その実務経験から翻訳理論を打ち立てます。

彼の功績として大きなものの一つが、意味というのは変わらないものではなく、文脈によって意味が変わってくること、つまり文化によって異なる意味を持つということを提唱したことだそうです。

また、その文化によって変わってくる意味を分析する方法も体系的に提示しています。例えば、位階構造化(hierarchical structuring)という分析方法では、「動物」という上位概念の下に「犬」「猫」などが含まれるなど、関連する言葉の関係性を整理するなどといったことがあります。

もう一つの功績は、等価のタイプとして以下の2つを提示したことです(以下はざっくりした私の理解です)。

  • 形式的等価(formal equivalence)-原文(起点テキスト)の文法形式や内容と同じ形式・内容を伝えること(翻訳から原文が透けて見えるような、注釈などがたくさんついた翻訳などのことを指すようです)
  • 動的等価(dynamic equivalence)-原文(起点テキスト)とその読み手との関係と、翻訳文とその読み手の関係が同じであること(原文の読み手が受けるような印象を、翻訳文の読み手も受けるようにすることかなと思います)。

ナイダの「形式的等価」「動的等価」という概念は、翻訳理論に「翻訳の読み手」という新たな視点を導入したという点で評価されているようです。