第二言語習得における個人差研究とその批判について

第二言語習得と個人差

言語習得には当たり前ですが個人差があり、その個人差(individual differences(ID))を探る研究も数多くあります。

個人差を形成する要因としては以下のようなものがあげられます。

  • 言語適性(language aptitude)
  • 学習ストラテジー
  • 学習動機(motivation)
  • 認知スタイル
  • 性格

特に学習動機や言語適性では数多く研究がなされています。

なお、言語適性については、ワーキングメモリー(working memory)に関する研究もよく行われています。

ワーキングメモリーとは、短期間での情報の保持・処理を行う記憶のことを言うのですが、その容量が言語適性に影響を大きく及ぼすといわれています。

 

個人差研究における前提

従来の個人差の研究には、以下のような前提があるとDornyei and Ryan(2015)は指摘しています。

  • 個人差が個別に定義可能な心理的概念である
  • 比較的固定的な属性である
  • それぞれの個人差の要素というのは、統制されたものであり(monolithic)、要素間の関係性はそこまで多くない
  • 個人の内部に存在するものであり、外部環境からは比較的独立している

Dornyei and Ryan(2015, p.6)

 

 

個人差研究に対する批判

勿論個人差研究の必要性を否定するものではないですが、この4つの前提については、以下のような批判もあります(Dornyei and Ryan(2015))。

 

まず、大きな批判は、外部環境を考慮に入れていないことです。

性格や動機といった個人差は、外部環境の影響を大きく受けます。

例えば、「学習動機」は、その時々の自分の調子や感情、クラスメートとの関係性などによって大きく変化するものです。

 

また、「動機」「学習ストラテジー」「言語適性」などの一つ一つの要因を、統制された一つのものととらえるのも問題があります。

例えば、「学習ストラテジー」といっても大小様々なストラテジーがあり、同時に様々なストラテジーを駆使していると考えられます。

その中で何をもって「学習ストラテジー」というのか、なかなか一枚岩ではないのが現状です。

 

さらに、それぞれの個人差の要因も独立したものではなく、密接にかかわりあっているとも考えられます。

 

最近の動向

こういったことを踏まえ、個人差の一つ一つの要因を個別に調べるのではなく、もっと全体的に個人差を捉えていく必要があるという流れもあります。

学習動機の第一人者でもあるDornyeiも、2000年代には、「自己(self)」という大きな視点から学習動機を捉えようとしていました(詳しくはこちら)。

Complex dynamic systems theoryなどを使って、個人差を質的に分析する研究も増えているようです(Taguchi and Roever 2017

 

ただ、こういった質的研究だと、一般化がなかなか難しいという問題もあるため、量的分析と質的分析を組み合わせているものも多いようです。

 

興味のある方は

  • Dornyei, Zoltan, and Stephen Ryan. The psychology of the language learner revisited. Routledge, 2015.

この記事を書く時も、この本を参考にしました。

 

  • 小柳 かおる・向山 陽子(2018)『第二言語習得の普遍性と個別性 ―学習メカニズム・個人差から教授法へ』くろしお出版

↑日本語では以下のような本もあるようです。