音声学と音韻論の違い
音声学(phonetics)と音韻論(phonology)は、どちらも「音声」を扱うということで似ているのですが、以下のような違いがあります。
以下、音声学と音韻論、それぞれ私の理解している範囲で違いを書きたいと思います。
音声学
音声学のほうは、「言語音の諸特徴を記述する」とありますが、人間が発するあらゆる音声を対象にします。
実際に使われている音を対象にし、その音がどう調音され、どう伝達され、どう知覚されるのかを研究する分野です。
↑詳しくはこちらもご覧ください。
また、音声学では音声を記述するといいましたが、記述にあたっては、国際音声記号(IPA)という国際的な音声記号があります。
音声学の特徴として、ある言語に限ったことではないということがあります。人間が使う「音声」に着目しているので、ユニバーサルな傾向が強いです。
音韻論
音声学が実際に使用されている音声を対象にするのに対し、音韻論はある言語の抽象的な音声体系を対象にします。
音声学が言語間で普遍的な特徴を探る傾向があるのに対し、音韻論はそれぞれの個別の言語にどんな音声体系・構造があるか調べる傾向があるという特徴があります。
音韻論では、ある言語でどのような音素(意味の違いに関わる最小の音声的な単位(庵 2012, p. 19))があるかを特定し、その言語がどのような音声体系・構造をしているかなどを研究します。
ちなみに、日本語の音素は23あるといわれています(細かくは研究者によって違います)。
↑詳しくはこちらの記事もご覧ください。
音声学と音韻論の違いの例
これだけではわかりづらいので、具体例を出してみます。
「音素とは何か」の記事でも書きましたが、日本語では音素の/N/があります。日本語の「ん」に当たる音です。
ただ、この「ん」の音は、実は後に続く音によって発音が変わると言われています。
- さんま[samma]
- さんた [santa]
- さんか [saŋka]
この3つの単語は、日本語母語話者だと同じ「ん」として認識する人が多いと思いますが、よく考えて発音すると、実は違う音です。
そう考えると、 /N/という音素は、複数の音を含めた抽象的な音の単位と考えられます。
↑図に表すとこんな感じです。
こういう抽象的な音の単位の構成・分布を探るのが音韻論です。
また、[m] [n] [ŋ]などの、実際に使われている音がどうやったら発音できるのか、どう伝達されて知覚されるのかを対象にするのが音声学です。
まとめ
音声学と音韻論の違いについて、自分の理解している範囲でまとめてみました。
ただ、音声学と音韻論の違いについては諸説あるようです。
私自身も、これを書きながら、現在音韻論で具体的にどんな研究がされているのかほとんど知らないことに気がつきました。機会があれば調べてみたいと思います。