リンガフランカとしての英語(English as a Lingua Franca(ELF))は英語の変種なのか?

リンガフランカとしての英語=英語の変種?

リンガフランカとしての英語とは?

「リンガフランカ」というのは、もともとは「フランク王国のことば」というイタリア語に由来するそうです。

ただ、今は共通語をもたない人々がコミュニケーションをするときに使われる言語という意味で使われます。

 

また、母語でない話者同士が話す英語のことを「リンガフランカとしての英語(English as a Lingua Franca(ELF))」ということが多くなっています。

あたかも「リンガフランカとしての英語」というのが存在し、「インド英語」「シンガポール英語」といった他の英語の変種と同様に扱われることもあります。

 

リンガフランカとしての英語≠英語の変種

ただ、「リンガフランカの英語」は英語の変種ではないと考える学者が多いようです。

 

Mollin(2006, p. 1)は『Euro-English: Assessing Variety Status』で、「リンガフランカとしての英語」ともいわれる「ヨーロッパ英語」について以下のようにいっています。

 

Euro-English seems to be the Yeti of English varieties : everyone has heard of it, but no one has ever seen it.
ヨーロッパ英語は、英語変種の雪男(ヒマラヤ山脈に住むといわれているが誰もみたことがない。)のようなものだ。皆聞いたことがあるが、誰も見たことがない。

 

これは何をもって「言語」と呼ぶのかという根本的問題にもかかわってくるのですが、「インド英語」といった英語の変種の場合、ある程度の語彙表現・発音体系などの規範があります。

 

ただ、リンガフランカとしての英語というのは、規範というもの自体がないとも言えます。

誰かと話すとき、それがどんなに短い期間であっても、お互い意思疎通ができるように、話し方や内容を調整し、自分たちの間のルールを作っていきます。

これは同じ言語を話していても同じです。例えば、職場の人と話すときと家族や友達と話すときで、話し方や内容を意識的・無意識的に調節する人が多いと思います。

 

「リンガフランカとしての英語」の場合、話し手と聞き手は、母語を共有しておらず、英語力に差があることが多く、さらに文化背景を共有していないことも多いです。

この状況下で、どうにか意思疎通を測ったり、共通理解を構築しようとするときの英語が「リンガフランカとしての英語」です。これは、会話が終わると消えてしまうようなものです。

 

Kesches (2019, p. 12)は「リンガフランカとしての英語」は「ingenuity of the speaker-hearer(話者・聞き手の創意工夫)」ともいっています。

 

リンガフランカの英語研究の第一人者の一人であるSeidlhofer (2011, p.77)は以下のようにいっています。

ELF as I conceive of it is functionally and not formally defined: it is not a variety of English but a variable way of using it – English that functions as a lingua franca.

私の考えるリンガフランカとしての英語は、機能的に定義されるもので、形式的に定義されるものではない。英語の変種ではなくて、英語を変幻自在に使う方法である。リンガフランカとして機能する英語なのである。

 

「リンガフランカとしての英語」はある体系を持った「英語の変種」ではなく、母語が違う人同士の意思疎通の目的で英語を使用するということのようですね。

 

リンガフランカとしての英語の特徴

とはいえ、先行研究では、リンガフランカとしての英語の特徴も指摘されています。

リンガフランカとしての英語では、比喩表現などが使われる頻度が低く、自分がいったものが、そのまま言葉通りの意味のことが多いと言われています。

 

また、リンガフランカとしての英語(ELF)の特徴としては、理解しやすい発音、文法の単純化や、新しい語彙の創造なども指摘されています(Taguchi and Ishihara 2018, p. 81)。

 

まとめ

なお、この記事を書くときに参考にしたものは以下の本です。

語用論の視点から、リンガフランカとしての英語を考察したものです。

  • Kecskes, Istvan. English as a lingua franca: The pragmatic perspective. Cambridge University Press, 2019.

 

また、日本におけるリンガフランカとしての英語については以下のような本も出版されています。

  • Konakahara, Mayu, and Keiko Tsuchiya.(eds.)  English as a Lingua Franca in Japan: Towards Multilingual Practices. Palgrave Macmillan, Cham, 2019.

 

リンガフランカとしての英語について知りたい方は、論文集がでています。

  • Jenkins, Jennifer, Will Baker, and Martin Dewey, eds. The Routledge handbook of English as a lingua franca. Routledge, 2017.