ローマ字表記(ヘボン式・日本式・訓令式)の違いについて

日本語をローマ字表記をするときに、どう表記するか迷ったことはないでしょうか。

例えば、「新聞」は、「Shimbun」でしょうか。それとも「Shinbun」でしょうか。

この記事では、ヘボン式・日本式・訓令式のローマ字表記法の違いを紹介します。

 

ローマ字(ヘボン式・日本式・訓令式)

ローマ字は、もともとは室町後期以降、ポルトガルの宣教師たちが日本語をつづるときに使われました。

その後、江戸時代では、オランダ語の発音に基づくローマ字が蘭学者によって使われ、幕末になるとドイツ式・フランス式も生まれました。

 

ヘボン式

「ヘボン式」の「ヘボン」は、1859年に来日し、横浜で医療活動に従事したアメリカの宣教師であるヘボン(James Curtis Hepburn)(1815-1911)に由来します。

 

ヘボンは和英辞書の編纂に携わり、1872年に「和英語林集成(A Japanese and English Dictionary with an English and Japanese Index)」という初の和英辞典を刊行しました。

↑このように、日本語をローマ字で書いたうえで、カタカナ・漢字も併記しています。

 

1886年にヘボンが出版した『和英語林集成』第3版で使われたローマ字表記が「ヘボン式」といわれるものです(旧ヘボン式ともいわれます)。

 

なお、このローマ字表記は、1885年に外山正一やチェンバレンなどを中心とした「羅馬(ローマ)字会」が発表した「羅馬字にて日本語の書き方」に基づくものです。

 

その後、1908年には、一部を変更した「標準式」(改正ヘボン式)もできました。

 

ヘボン式は子音を英語風に、母音をイタリア語風に書き表しているのが特徴です。

例えば、ヘボン式は「ち」を「chi」、「し」を「shi」と表記するのですが、「ch」「sh」という英語の子音の発音に合わせています。

 

日本式

ただ、ヘボン式ローマ字は、英語の発音に偏っていると批判されました。

このため、物理学者の田中館愛橘(1856-1952)は、日本語の五十音に基づく日本式のローマ字のつづり方を提起しました。

 

日本式ローマ字の特徴は、日本語の音韻に基づいていることです。 五十音図と規則的に対応しています。

例えば、ヘボン式では「たちつてと」は、「ta chi tsu te to」となります。

これは発音しやすくするためなのですが、日本語の五十音図に基づくと、タ行は「ta ti tu te to」と「t」で合わせたほうがいいと田中は考えたのです。

発音の正確さよりも規則性を重視した表記法といえます。

 

訓令式

このように表記が統一されていなかったので、1937年の内閣訓令により、ヘボン式・日本式の統一が図られました。

それが現在の訓令式ローマ字です。

ただ、実際には訓令式には日本式が多く取り入れられており、ヘボン式擁護者から反対もあり、結局統一されることはありませんでした。

 

1954年には「一般の社会生活における国語表記の目安・よりどころ」になるものとして、「ローマ字のつづり方」が告示されました。

(この告示は普段の生活に強制力があるものではありません)

 

この中で訓令式を「一般に国語を書き表わす」場合に従うものとしています。

ただ、ヘボン式・日本式も示して、「国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り」、(ヘボン式・日本式にしても)「さしつかえない」としています。

 

ヘボン式・日本式・訓令式の違い

主な違いは以下のとおりです。

なお、ヘボン式はいくつか方式があるので、以下と違う表記の場合もあります。

ヘボン式訓令式日本式
shisi
しゃ、しゅ、しょsha, shu, shosya, syu, syo
jizi
じゃ、じゅ、じょja, ju, jozya, zyu, zyo
chiti
ちゃ、ちゅ、ちょcha, chu, chotya, tyu, tyo
jizidi
ぢゃ、ぢゅ、ぢょja, ju, jozya, zyu, zyodya, dyu, dyo
tsutu
zudu
fuhu
owo
n/m
[b, m, pの前はmを使う]
n

訓令式が日本式のローマ字表記を多く取り入れているのがわかりますね。

 

現在の使用

現在、小学校の国語の授業では訓令式ローマ字を学ぶものの、普段の生活ではヘボン式(またはヘボン式に近い表記)が広く使われています。

 

例えば、鉄道の名前は旧ヘボン式で示されています。

↑新橋駅は今も「Shinbashi」ではなく、「Shimbashi」となっています。

旧ヘボン式は、b, m, pの前の「ん」は「m」を使うとしていて、この旧ヘボン式に基づくものです。

 

パスポートの名前表記も、特別に申請しない限り、ヘボン式をもとにした表記を使用することになっています。

 

また、企業名なども「Matsuda」など「Fujitsu」などヘボン式をもとにしています。

(「Matuda」「Huzitu」と訓令式の表記は、ほぼ見ないですね。)

 

ちなみに、日本の新聞社も、自社の英語表記を「shinbun」ではなく、「Shimbun」と旧ヘボン式を使用しているところが多いですね。

 

まとめ

ローマ字表記の違いについてまとめました。

 

ご興味のある方は以下のような本もあります。