文化間コミュニケーション能力モデルで有名なバイラム(Byram)の講演を視聴しました。

Byramは文化間教育では特にヨーロッパで有名な学者で、彼が1997年に提示した文化間コミュニケーション能力モデルは、だいぶ批判もされていますが、今も影響力を持っています。

  • Byram, Michael. Teaching and assessing intercultural communicative competence. Multilingual Matters, 1997.

今回は2011年にデンマークで行われた講演がアップされていたので見てみました。

  • Byram, Michael (2011) Mobility and identity: Looking for cause and effect and seeking understanding

この研究では、アイデンティティの研究の方法について、欧州委員会(1995)の「言語を学ぶことでヨーロッパ人としての気持ちが強くなる」という主張を基に、どのような研究が可能かを3つに分けて説明していました。

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①仮説の検証
実際に「言語を学ぶことでヨーロッパ人としての気持ちが強くなる」という主張が正しいのか、それを質問調査などを通して調べる方法

②「ヨーロッパ人」とは何かについての理解
「ヨーロッパ人」とはどういうことなのかをインタビューなどを通して調べる方法。ただ、「誰にとって」の話なのかを考えなければいけないといっていました。(例えば欧州委員会の人にとってのヨーロッパ人か、一般の人にとってのヨーロッパ人か)

③アドボカシー研究
ある政治的立場を持って、政治的にトピックや方法論などを選んで研究し、その結果をもとに、政治的な変化を提唱する研究
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この②の例として挙げていた、インタビューデータが結構面白くて、質疑応答も方法論というよりデータについての質問が多かったです。

②の例のデータでは、1年間フランスに留学をしたイギリス人Lynnに対し、留学直後と、その後、卒業し、ベルギー人と結婚し子供もできた10年後にインタビューをし、彼女が「ヨーロッパ人性」についてどういうことをいっているのか、内容を比べていました。

留学後は「フランス人になりたいけど、いくらフランス語を話しても、フランスに住んでも、フランス人として生まれないとフランス人にはならない、でもヨーロッパ人にはなれる」と言っていました。

10年後ベルギーに住んでいる彼女は「イギリス人であろうとしている。でも子供は違うパーソナリティーになると思う」と言い、「ヨーロッパ人ではあるけれども、ヨーロッパ人というと違いがなくなってしまう気がする」といっていました。

こういう話はよく聞く気がしますが、確かにどう分析するかは難しいと思います。例えば質問の中には、「インタビューした人が『ヨーロッパ人』だった場合と、そうでない場合で、Lynnが言うことも全然違ったのでは?」とか「『ヨーロッパ人』という概念が地理的範囲というだけじゃなくて、もっと違う付加価値を持っているのではないか?」とかありましたが、確かにその通りだと思いました。