音韻論とは?
音韻論(phonology)とは、「音の文法」に関する分野です。(斎藤他2015)
「音に文法があるの?」と思うかもしれませんが、あります。
例えば、「いぬ」と「ことば」を組み合わせて新しい複合語を作るとき、「いぬごとば」と「ことば」の最初の「こ」を「ご」と連濁させるでしょうか?それとも、「いぬことば」と「こ」のままにして連濁させないでしょうか。
多くの人は、「いぬごとば」と連濁させると不自然に感じ、「いぬことば」にすると思います。
これはなぜかというと、複合語には「後ろの語に既に濁音が含まれている場合、連濁は起こらない」というルールがあるからです(一般にライマンの法則といいます。)
このように、(普段は意識しないことが多いですが、)音にもルールがあり、これを探っていくのが音韻論です。
音韻論の射程
音韻論でよく研究されている分野は以下のとおりです。
音素配列(phonotactics)
音素配列とは、各言語における音素の並び方の制約を扱う分野です(音素については『音素とは何か』をご覧ください)
例えば、日本語は、語頭に子音を2つ並べることができないという制約があります。
英語だと「track」「star」など語頭に子音を2つ並べることができますが、日本語には「tr」や「st」で語を始めることができません。
なお、英語は語頭に子音を2つ並べることができるといいましたが、すべての子音の組み合わせが許されるというわけではありません。
例えば、「pretend」の「pr」、「train」の「tr」、「star」の「st」などは組み合わせとして可能です。ただ、「tl」や「zb」といった子音2つで始まる語はありません。これは英語の制約になります。
このように各言語ごとの音素の並べ方の制約のルールを探っていくのが音素配列です。
音韻変化(phonological change)
音韻変化というのは、音が何かのきっかけによって変化することです(川原 2022)。音韻論ではこの音韻変化の法則を探ります。
例えば、日本語は、以下のように、「ハ行」の音の前に小さい「っ」がつくと、それが「パ行」に変化します(川原 2022)。
- にっぽん
- いっぴき
- いっぺん
- いっぱい
また、他の例としては連濁があげられます。
日本語は、和語が合わさるときは連濁します(ライマンの法則のように例外もあります)。
- 鼻(はな)+ 声(こえ) → 鼻声(はなごえ)
- 青(あお)+ 空(そら) → 青空(あおぞら)
- 花(はな)+ 火(ひ) → 花火(はなび)
連濁とは、単語と単語が合体するときに、後ろの語の語頭が濁音に変わることをいいます。 例えば、「鼻(はな)」と「声(こえ)」が合わさると「鼻声(はなごえ)」になりますね。後ろの語「声(こえ)」の語頭「こ」が「[…]
音韻変化というのは、小さい「っ」が前にあるなど、何かの条件がきっかけで起こることが多く、どういった条件で音の変化が起こるのかを調べます。
その他
音象徴の研究も音韻論に含まれることが多いです。
音象徴とは音象徴は英語ではsound symbolismになりますが、これは「音から意味の連想が直接起きる現象」(川原2015 p.6)のことを言います。takete/malumaとbouba/kiki音象徴の研究で有名なのは、[…]
まとめ&ご興味のある方は・参考文献
音韻論について簡単に紹介しました。まとめると以下のようになります。
- 音韻論(phonology)とは、「音の文法」に関する分野
- 音韻論の研究では、音素配列や音韻変化などが扱われる。
日本語の音韻論に興味のある方は以下の書籍等がおすすめです。
育児エッセイでもあるので、気軽に読めます。読んでいく中で、音声学・音韻論の知識も増やすことができる本です。
岩波ジュニア新書なのでわかりやすく書かれています。音韻論の研究についても触れることができます。
音韻論について専門的なことを知りたい人向けの本です。
ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。