ジョン・L・オースティン(John Langshaw Austin)について
Austin( 1911- 1960)はスピーチアクト理論を提唱した学者です。オックスフォード大学で1940年代・1950年代に教鞭をとっていました。
ソシュールから続く言語学では、言語の構造を考察するものが多かったのですが、Austinの功績は、人々が言葉を使って何を行うのか、という言語の社会機能にも目を向けたことと言われています。
現在「語用論(pragmatics)」と言われる分野の基盤を作った学者の一人です。
- Austin, John Langshaw. How to do things with words. Oxford university press, 1962.
↑これは彼の死後に出版された講義録で、12の講義が収録されています。
和訳も出ています。
- ジョン・L・オースティン『言語と行為』坂本百大訳、大修館書店、1978年
Austinの考え
Austinは、言語というものは、事実を述べるものだけではなく、何かの行為を遂行するためにもつかわれると考えました。
例えば、「この山には熊がいます」というと、事実を述べているような文とも取れますが、登山者に対して言う場合は、それが「気をつけて」という警告の意味になることもあります。
「明日は用事があるんです」というと、自分の予定を述べているようにも聞こえますが、誰かに誘われたときに、「明日は用事があるんです」というと、断りという行為をしていることになります。
Austinは、事実を述べる文を「constatives(事実認識的発話)」、行為を遂行する文を「performative(行為遂行的発話)」と区別しました。
- 机の上にコンピューターがあります。
- 私はあなたと結婚します
という文があったとします。①の文は事実を述べているため、constatives(事実認識的発話)、②の文は、これを発話することにより、単に事実を述べるだけでなく、「結婚する」という行為が行われるので、performative(行為遂行的発話)となります。
「結婚」以外にも「謝罪」「拒否する」「宣言する」「名づける」「約束する」「任命する」などがこういった行為を行う動詞になります。
「あなたを部長に任命します」というと、それを言ったことによって行為が遂行されます。
スピーチアクト理論
ただ、オースティンは徐々に考えを発展させていきます。上記の本の講義8では、「constatives」と「performative」は簡単に分けて考えることはできないといっています。(p. 94)
例えば、上記の1の「机の上にコンピューターがあります」という文は勿論事実を述べていますが、誰かがコーヒーが並々入ったコップをもって、机に近づいてきた場合は、「気をつけて」という「警告」の意味になるかもしれません。
上記の2の「私は結婚します」という文は、「結婚」という行為を遂行するだけでなく、「私が結婚する」という事実も述べているとも考えられ、一概に「performative」だとは言えません。
そういった考察を踏まえたうえで、オースティンは発話は、以下の3つの行為を遂行していると考えました。
- 発話行為(locutionary act)
- 発話内行為(illocutionary act)
- 発話媒介行為(perlocutionary act)
まとめ
次の記事では、この発話行為(locutionary act)、発話内行為(illocutionary act)、発話媒介行為(perlocutionary act)の一つ一つについて説明したいと思います。
ジョン・L・オースティン(John L. Austin)・スピーチアクト理論について②:発話行為・発話内行為・発話媒介行為