モダリティ(法性)とは何か?対事的モダリティと対人的モダリティの違い

モダリティとは?

この記事では、モダリティについて説明します。

モダリティというのは、話し手の態度を表す文法カテゴリーです。日本語では法性といいます。

日本語の場合

日本語の場合、「彼が来る」という文の後に、様々な文末表現をつけることによって、話し手が「彼が来る」という事柄をどうとらえているかを示すことができます。

  • 彼は来るだろう
  • 彼は来るかもしれない
  • 彼は来るはずだ
  • 彼は来るよね

「~はずだ」を使うと、話し手が「彼が来る」という事柄の蓋然性が高いと感じていることを示せます。

一方、「かもしれない」や「だろう」を使うと、「彼が来る」という事柄の蓋然性は低いと話し手が感じていることがわかります。

彼は来る「よね」と、「よね」をつけると、話し手が相手に確認を求めていることがわかります。

 

「彼が来る」のような客観的に把握できる事柄を「命題」といいます。

モダリティは、「かもしれない」「だろう」「はずだ」「よね」のような、命題の内容に対する話し手の態度を表すものです。

日本語のモダリティは、下記のように、モダリティが命題を包み込むような形で存在します(庵 2012, p. 168)。

つまり、「彼が来る」というような命題があって、そのあとに「だろう」「かもしれない」などのモダリティが付くという形です。

なお、日本語のモダリティでは文末表現に主眼が置かれることが多いですが、「たぶん彼は来る」のような副詞もモダリティに含められます。

英語の場合

英語の場合は、wouldやmustなどの法助動詞(modal auxiliary)や、maybeやprobablyなどの法副詞(modal verbs)でモダリティが示されます。

  • He should come.
  • He may come.
  • He must come.
  • He probably comes.

英語のモダリティは多義的だと言われています(黒滝 2005) 

例えば、「He must come」という文だと、「彼は来るにちがいない」という話し手の認識(epistemic)を表すモダリティの意味と、「彼は来なければならない」という義務的(deontic)な意味が出てきます。

モダリティの定義

モダリティの定義や、何をもってモダリティとするかというのは議論が分かれるところです。

日本語のモダリティの定義では、「命題に対する話し手の主観」と説明されることも多いですが、客観的な「命題」と主観的な「モダリティ」に厳密に分けることが難しいこともあります。

モダリティの範囲を考えるときに、疑問文やテンスをモダリティに含めるかなども意見が分かれます。

対事的モダリティと対人的モダリティ

対事的モダリティ

日本語のモダリティを議論するときによく出てくるのが、対事的モダリティと対人的モダリティの区別です。

対事的モダリティは、話し手が命題の内容をどのように捉えているかを表すものです。

例えば、「かもしれない」「はずだ」「らしい」のような表現は、命題が正しいかどうかに関する話し手の捉え方(話し手の認識)を示すものです。

「べきだ」「なければならない」というような表現は、命題を義務的と思っているかどうかに対する話し手の捉え方を示しています。

対事的モダリティには以下のような例があります。

機能表現例文
義務・当為~べきだ

~なければならない

~わけだ

彼は来るべきだ

写真を撮らなければならない

20年も日本に住んでいるから、日本語が上手なわけだ

推量~と思う

~だろう/でしょう

明日は晴れると思う

明日は雨が降るだろう

可能性~かもしれないAさんは嘘をついているかもしれない
確信~はずだAさんは学生のはずだ
証拠~そうだ

~らしい

Aさんは結婚するそうだ

Bさんはフランスに行くらしい

兆候~ようだこの店は人気があるようだ
断定何もつかない明日は雨が降る。

なお、「明日は雨が降る」というように、何の文末表現もつかないケースも、対事的モダリティに入れられることが多いです。

何の文末表現もつけずに、命題の内容をそのまま伝えようとする話し手の態度ということで、「断定」を表すものと判断されます。

対人的モダリティ

対人的モダリティは、聞き手に対する話し手の態度を表すものです。

モダリティは話し手の主観を表すものですが、コミュニケーションにおいては、命題の内容をどう捉えるかのみならず、聞き手との関係性が重要になります。

対人的モダリティは、命題の内容を、相手にどう働きかけていくのかということと関係します。

例えば、「~ましょう」のような表現を使うことで、話し手が相手を勧誘していることを示せます。

対人的モダリティには以下のような例があります。

機能表現例文
勧誘~ませんか/~ましょうご飯を食べにいきませんか
命令・依頼~なさい

~てください

部屋を片付けなさい

メールを送ってください

意志~よう今日、映画を見に行こう
禁止~てはいけない川で遊んではいけない
質問~か/~の学生です
同意・確認~よ/~ね/~よね明日は大学に行くよね

 

ただ、対事的・対人的モダリティの区別も自明ではなく、どちらにも関係するものもあります。

例えば、「~なければならない」は、「宿題をしなければならない」と聞き手に対して言った場合は対人的モダリティと考えられます。

一方、同じ文でも、自分自身に行った場合は、自分が「宿題をする」という命題について義務的に感じているという点で、対事的モダリティになります。

対事的モダリティ・対人的モダリティの関係

日本語の場合、対事的モダリティの後に、対人的モダリティが来ることが普通です。

例えば、「彼は来るにちがいないよね」という文だと、対事的モダリティである「にちがいない」が先にきて、そのあとに、対人的モダリティである「よね」がきます。

まとめ

この記事ではモダリティについて説明しました。まとめると以下のようになります。

  • モダリティというのは、話し手の態度を表すを表す文法カテゴリーのことをいう。
  • 日本語のモダリティは対事的モダリティ(話し手が物事をどのようにとらえているか)と対人的モダリティ(聞き手に対する話し手の態度)によく分けられる。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

参考文献

日本語のモダリティについて学びたい方は、以下の入門書が分かりやすいと思います。今回の記事でもこの本を参考にしました。

入門書ですが比較的詳しく説明してあります。

日本語教育関係の入門書であれば、だいたいどの教科書でもモダリティについては紹介されています。

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また、モダリティ研究について興味のある方は以下のような専門書籍もあります。

モダリティ研究の概要や日本語のモダリティ研究についてわかりやすくまとめてあります。

日本語と英語のモダリティを比較したものです。

日本語のモダリティ研究ではよく引用されている書籍です。