形態論(morphology)とは何か?

形態論とは何か?

この記事では言語学に一分野である形態論についてごく簡単に紹介します。英語ではMorphologyですね。

 

Morphologyというのは、ギリシャ語の「形状」という意味の語根の「morph」からきています。

形態論は、語がどういう形状(構造)をしているか、語がどう作られるかを調べる分野です。

 

語構造、つまり語形成規則を含む文法構成要素の研究」(フロムキン・ロッドマン 2002, p. 461)と定義されたりします。

 

これだとわかりにくいので、例を出して説明します。

 

語構造についての話者の知識

例えば、「山田さんっぽい行動をすること」を動詞にして表すために、「山田る(やまだる)」という語を新しく作ったとします。

 

この「山田る」という動詞を活用していくと、どうなるでしょうか?

  • 山田ない
  • 山田ます
  • 山田
  • 山田ば/山田れ
  • 山田ってください

という風になったのではないでしょうか?

 

新しい動詞を作るとき、だいたいこのような「名詞+る」で作られることが多いです。

比較的新しい語としては、以下のような語がありますね。

  • サボる
  • ググる
  • メモる
  • バズる
  • パニクる

「サボる」というのはフランス語の「サボタージュ(savotage)」を短くした語です。

「ググる」は、「Google(グーグル)」を短くしたものですね。

「メモる」や「バズる」、「パニクる」は、英語のmemoとbuzz、panicを日本語化したものです。

 

語源は様々ですが、面白いのは、すべて「名詞+る」の形をとっていることです。そして、活用する場合は、「サボらない、サボります、サボる…」といったように、上にあげた「山田る」の例と同じような活用をします。

 

「山田さんっぽい行動をすること」を示すための新たな動詞を作るときに、「山田く」「山田う」などという動詞の形は考えた人はほとんどいないのではと思います。

動詞としては「書く」「咲く」「買う」「合う」のように「く」や「う」で終わる動詞もあるのに、なぜ「る」を選ぶのでしょうか。

 

 

また、山田っぽくないことを示すために「非」や「不」をつけて「非山田」「不山田」みたいな語を作ることもできるかもしれません。

とても山田っぽいこと示すために「超山田」「激山田」などいう語を作ることもできるかもしれません。

ただ、この場合も、山田っぽくないことを示すために、「非」を「山」と「田」の間にもってきて「山非田」にしたり、一番最後にもってきて「山田非」などにしようと思う人は少ないと思います(勿論、いないというわけではありません)。

 

なぜ、新しい語を作るとき、でたらめな語になるのではなく、似たような形になるのでしょうか?

 

形態論では、話者の頭の中には、語を形成するルールがあると考えます。

そして、形態論は、語の構造や、話者の頭の中にある語を形成する規則が何かを探る分野です。

 

 

形態素

なお、形態論で重要になる概念は形態素(morpheme)です(詳しくは「形態素(morpheme)とは何か」をご覧ください)。

形態素は、意味を持つ最小の単位のことです。

例えば「日本語」という語は「日本」と「語」に分けられます。

ただ、「日本」をさらにわけることはできません(したら、意味がなくなるか、変わってしまいます)。

なので、「日本」と「語」が意味の最小の単位と考えられます。

 

「パクる」という動詞の場合は、「パク」と活用語尾の「る」に分けられます。

「『る』は意味を持っていないではないか」と思う人もいるかもしれませんが、接辞や活用なども形態素になります。

 

形態論では、形態素がどう組み合わされて、語が形成されているのかを探ります。

 

統語論との違い

この前、「統語論とは何か?」という記事で統語論についても紹介しました。

形態論も統語論も、話者の頭の中にある文法を探るという点では似ており、密接に関係しています。

この2つは、語レベルを扱うの場合は形態論句・文レベルを扱うのが統語論と区別できると思います。

 

形態論では、形態素を組み合わせてどう語が形成されるのかを主に研究します。

これに対し、統語論では、語と語を組み合わせてどう文を作られるのかを主に探っていきます。

 

ご興味のある方は

言語学の入門書としては以下のようなものがあります。

  • Fromkin, Victoria, Robert Rodman, and Nina Hyams. An introduction to language. Cengage Learning (18th edition), 2018. 

有名な言語学の入門書です。入門書といっても言語学全般について結構詳しく説明してあると思います。

著者の一人、Victoria Fromkinは亡くなってしまいましたが、その後も再版され、2021年現在で第18版まで出版されています。

統語論についても第18版では第3章に記載されています。

 

日本語だと以下のような本も2021年に出版されました。

  • 高橋 留美・大塚 みさ・杉本 淳子・田中 幹大(2021)やさしい言語学. 研究社

 

他の言語学の分野について知りたい方は、よろしければ以下の記事もご覧ください。

 

 

日本語で新しい語を作るときの造語法について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。