指示語の直示(現場指示)と照応(文脈指示)の違いについて

この記事では、指示詞の直示と照応の違いについて説明します。

直示と照応の違い

指示語(demonstrative)というのは、実質的な意味は持たないが、何かを指す働きを持つ語のことです(近藤・小森 2016, p. 187)。

日本語の指示語は「この」「その」「あの」、「これ」「それ」「あれ」、「ここ」「そこ」「あそこ」などの「こ・そ・あ」です。

 

指示語の用法は、大きく分けて、直示(現場指示)と照応(文脈指示)にわけられます。

(観念指示用法という、記憶の中にある物事を示す用法を加える場合もありますが、今回は省略します)

 

この2つは以下のように区別されます。

直示(現場指示):その現場の中に存在するものを指示するもの
照応(文脈指示):談話・文の中で言及された語・句を指示するもの

この直示(現場指示)と照応(文脈指示)について以下で説明します。

直示(現場指示)

直示(現場指示)とは、指し示されるものが発話の現場に存在するケースです。

話し手と聞き手がその場におり、指し示す対象もその現場にあるケースです。

 

直示(現場指示)の例は以下のようなものがあります。

A: (りんごを食べながら)これ、すごくおいしいね。
B: 本当!

 

この場合、指し示す対象(りんご)がAさんとBさんの発話の現場に存在するので、現場指示になります。

 

照応(文脈指示)

照応(文脈指示)とは、談話・文の中で言及された語・句を指示するものです。

その現場には指示対象は存在しません

 

照応(文脈指示)の例は以下になります。

A: うちの店でバイトを探しているんだけど、なかなか見つからないんだよね。
B: 友達の山田さんは興味を持ってくれるかも?
A: 本当?その人、紹介してくれない?

Aさんは「その人」といっていますが、指示対象である「友達の山田さん」は現場にいません。

なので、これは照応(文脈指示)になります。

 

文章の中でその前後に言及された語を指し示す場合も、照応(文脈指示)となります。

例えば、以下の例があります。

日本の面積は約38万km2である。北海道の面積は、その約22%を占める。

この場合、「その」は、文章の前に出現した「日本の面積」を指しています。

 

 

前方照応と後方照応

照応は、指示対象が指示詞より前にあるか、後にあるかによって、前方照応(anaphora)と後方照応(cataphora)に分けられます。

 

前方照応は、指示対象が指示詞の前に出てくるケースです。

例えば以下のような例があります。

  • 昨日、新しくできたカフェに行ってきた。このカフェでは地域の野菜を使った料理を楽しめる。
  • サッカーは全世界でとても人気があるその理由の一つは、ボール一つあれば、だれでも楽しめるということがあるだろう。

どちらも指示対象(「新しくできたカフェ」、「サッカーが全世界でとても人気があること」)が指示詞(「この」「その」)の前に出てきています。

 

後方照応は、指示対象が指示詞の後に出てくるケースです。例えば以下のような例があります。

  • 昨日、こんな話を聞いた。母が学生時代のときに、全国コンクールで優勝したいう話だった。
  • 私が「バンジージャンプをしたい」というと、家族は口をそろえてこういった。「お願いだからやめて!」。
どちらも指示対象(「母が優勝した話」、「お願いだからやめて」)が指示詞(「こんな」「こう」)の前に出てきています。

まとめ

この記事では、指示詞の直示と照応の違いについて簡単に説明しました。

指示詞というのは、語用論・認知言語学等で研究対象になっています。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

 

もっと詳しく知りたい方は以下の本をご参照ください。

  • Charles J. Fillmore (1997) Lectures on deixis. CSLI Publications

チャールズ・フィルモアは、認知言語学に大きな貢献をした学者です。格文法、フレーム意味論を提唱したことでも有名です。

そのフィルモアがダイクシス(直示)について述べた講義録です。

 

  • Charles J. Fillmore、 澤田 淳(訳)(2022) ダイクシス講義. 開拓社

和訳も出版されています。

 

  • 金水 敏・田窪 行則(1992)指示詞 (日本語研究資料集 (第1期第7巻)).ひつじ書房

日本語の指示詞について研究したい人には、この本がおすすめです。専門書なので、一般向けではありません。

 

  • 庵功雄, 三枝令子(2013)まとまりを作る表現 : 指示詞、接続詞、のだ・わけだ・からだ. (日本語文法演習, 上級). スリーエーネットワーク

↑日本語上級学習者向けの文法演習本です。

日本語教育では、一般的に初級で直示(現場指示)について学び、中級で照応(文脈指示)について学びますが、細かく教えない場合も多いです。

また、英語や中国語のように、指示詞を二項対立(英語はthis/that、中国語は这/ 那)で区別する言語も多いです。

日本語の指示詞は「こそあ」で三項対立なので、使い分けるのは難しいと感じる学習者も多いです。

この演習本は、上級学習者向けに「こそあ」について細かく練習問題があるので、頭の整理にいいと思います。