日本語の母音融合とその例、母音融合が起こる理由について

母音融合とは

話し言葉で、「うまい」を「うめー」、「すごい」を「すげー」、「おまえ」を「おめー」などということがありますね。

ローマ字で書くと、以下のようになります。

  •  うまい (umai)→うめー(umee
  • すごい(sugoi)→ すげー(sugee
  • おまえ(omae)→ おめー(omee

「ai」「oi」「ae」という2つの母音が融合して、「e」という1つの母音になっています。

このように、2つの母音が融合して1つの母音になることを母音融合(vowel coalescence, vowel fusion)といいます。

この記事では、母音融合と、その例、母音融合が起こる理由について説明します。

 

日本語の母音融合の例

現代日本語の母音融合の例

日本語の母音融合の例は、以下のようなものがあります。

  • うまい (umai)→うめー(umee
  • わるい(warui)→ わりー(warii
  • すごい(sugoi)→ すげー(sugee
  • おまえ(omae)→ おめー(omee
  • いう(iu)→   ゆー (yuu
  • えいが(eiga)→ えーが(eega)
  • おうさま(ousama)→ おーさま(oosama)

いろいろなパターンがあることがわかります。

 

歴史的に変化してきた語の例

また、歴史的に変化してきたものもあります(稲田 2008, p. 39の例を引用)。

  • 手洗い(tearai) → たらい(tarai
  • 機織り(hataori) → 服部(hatori)
  • 長息(nagaiki) → 嘆き(nageki)
  • 淡海(awaumi) → (aumi) → 近江(oomi)

(私自身は、まったく別の語として認識していたため、「そうだったんだ!」と驚いたものが多かったです。)

 

母音融合が起きる理由

母音融合が起きる理由は、発音上の省エネだと言われています(窪薗 2019, p. 18)

日本語の母音を発音するときの、舌の高さと舌の前後の位置は、以下のようになっています。

 

例えば、「うまい(umai)」の「まい(mai)」には、「あ」と「い」という二つの母音が入っています。

「あ」から「い」に行くには、舌を低いところから高いところまでもっていかなければいけません。

ただ、それは面倒くさいということで、舌の高さ的に中間の位置にある「え」で妥協して、「うめー(umee)」になるということです。

 

「わるい(warui)」の場合、母音は「」→「」→「」となります。

上記の図を見ればわかるとおり、舌は大移動をしています。

まず「あ」で低い位置にあった舌を、高い位置の奥に持ってきて「う」を発音し、さらにそのまま前方にもっていって「い」を発音します。

これは大変だということで、「う」をすっ飛ばして、「あ」から「い」にして「わりー(warii)」になったと考えられます。

 

「すごい(sugoi)」の「ごい(goi)」には、「お」と「い」という二つの母音が入っています。

上の図を見ると、「お」から「い」に行くには、後方の真ん中の高さにあった舌を、前方の上のほうにもっていかなければなりません。

ただ、それを省エネして、舌の高さ的に「お」から「え」の水平移動にして、「すげえ(sugee)」にしていると考えられます。

 

母音融合の規則

母音融合は、個々人の好みで起きるのではなく(つまり、人によって融合の仕方が違うというわけではなく)、一般的な現象です。

要するに、ランダムに起こっているわけではなく、ある程度の規則性があると考えられます。

 

とはいえ、母音融合のパターンも多いので、ルールを考えるのは容易ではありません。

先ほど、「わるい(warui)」は「わりー(warii)」になるという母音融合の例がありました。つまり、前方の母音(「う」)」が後方の母音(「い」)に一致しています。

でも、考えてみたら、なぜ「わりー」になるのでしょうか?

同じ母音融合でも、前方の母音(「う」)に一致させる形で「わるー(waruu)」にしてもよかったのではないでしょうか?

 

「えいが(eiga)」の場合は、「えーが(eega)」になり、前方の母音(「え」)に一致しています。

母音融合の中には、後方の母音を前方の母音に一致させるパターンもあるんです。

 

こういった細かい規則については、窪薗晴夫が「現代言語学入門 2 日本語の音声 」(1999年、岩波書店)の中で、母音の音声の素性に基づいて分析しています。

もし詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。

 

ご興味のある方は

母音融合について簡単に説明しました。何かのお役に立てれば幸いです。

 

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

 

ご興味のある方は以下の本をご覧ください。

  • 窪薗晴夫 (1999) 「現代言語学入門 2 日本語の音声」 岩波書店