開拗音と合拗音の違いについて:なぜ関西学院大学はKWAnsei gakuinと表記するのか

拗音

拗音とは、「拗(ねじ)れた音」という意味で、「ちゃ」「きゅ」「ぎょ」「しょ」「ぐゎ」のように、小さい「や・ゆ・よ」や「わ」を添えて書くものを指します。

拗音は、開拗音と合拗音に分けられます。

今回は、この開拗音と合拗音の違いについて簡単に説明します。

なお、拗音は、昔から日本語にあったわけではなく、中国から漢字が入ってきた際にもたらされた音といわれています。

開拗音

開拗音は、母音である/a/ /u/ /o/と、その直前の子音の間に、半母音のyが入る音節です。

「きゃ/kya/」は開拗音ですが、母音/a/と、直前の子音/k/の間に、半母音/y/の音が入っています。

開拗音は以下があります。

  • きゃ、きゅ、きょ、ぎゃ、ぎゅ、ぎょ
  • しゃ、しゅ、しょ、じゃ、じゅ、じょ
  • ちゃ、ちゅ、ちょ
  • にゃ、にゅ、にょ
  • ひゃ、ひゅ、ひょ ぴゃ、ぴゅ、ぴょ
  • みゃ、みゅ、みょ
  • りゃ、りゅ、りょ

開拗音が文献でみられるようになるのは、音読みの仮名表記が定着した鎌倉時代からです(釘貫2023)。

鎌倉時代の文献には「成仏(じょうぶつ)」や「如来(にょらい)」など、開拗音が見られます。

室町時代には、日本語の音韻体系として確立するようになりました。

なお、現在のように小さい「や・ゆ・よ」を添えて書くのが一般化するのは、明治以降になってからです。

 

合拗音

合拗音は、母音と、その直前にある子音の間に、半母音wが入る音節のことです。

合拗音は現代日本語(共通語)の音韻体系には存在していません

 

合拗音は、平安時代に漢字の伝来とともに、日本語に入ってきました。

鎌倉時代以前には、「くぃ(kwi)」「ぐぃ(gwi)」「くぇ(kwe)」「ぐぇ(gwe)」もあったようですが、日本語に定着せず、「くゎ(kwa)」と「ぐゎ(gwa)」のみ定着するようになります。

火事を「くゎじ」、因果を「いんぐゎ」、菓子を「くゎし」,外国を「ぐゎいこく」などと言っていたようです。

ただ、この音も、次第に「か」と「が」と発音されるようになり、消失していきます。江戸では、19世紀初頭にはもうこの音はなくなっていたようです。

今は、火事は「かじ」、因果を「いんが」、菓子を「かし」,外国を「がいこく」と一般に発音しますね。

とはいえ、西日本では「くゎ(kwa)」と「ぐゎ(gwa)」の音の消失は遅く、20世紀終わりごろまで西日本を中心に残っていたそうです。現在も一部の地域では残っているかもしれません。

なお、合拗音は現代日本語の音韻体系にはなくなったと書きましたが、発音することは可能で、「グェン(Gwen)さん」など外国語の表記で使われたりはしています。

ローマ字表記で残る合拗音

合拗音はローマ字表記で残っているケースもあります。

2023年4月現在、「西本願寺」のローマ字表記は、「Nishi Hongwanji」になっています(ちなみに、東本願寺のローマ字表記は「Higashi Honganji」で合拗音は使われていません。)

関西学院大学の英語表記は「Kwansei Gakuin University」、活水女子大学の英語表記は「Kwassui Women’s University」となっています。

まとめ&ご興味のある方は

開拗音と合拗音の違いについて簡単に説明しました。まとめると以下のようになります。

  • 開拗音:「きゃ・きゅ・きょ」など子音・母音の間に半母音yが入る音節のこと
  • 合拗音:「くゎ・ぐゎ」など子音・母音の間に半母音wが入る音節のこと。現代日本語(共通語)では消失している。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

参考文献