Nord(2005)の枠組を使って翻訳授業を実施したKároly(2014)の論文を読みました。

Christiane Nordは、トランスレーション・スタディーズでは著名な学者で、特に1997年の以下の本などで、「Documentary translation」と「Instrumental Translation」という言葉を使って、異なる種類の翻訳を提唱したことでも有名です。

  • Nord, C. (1997) Translating as a Purposeful Activity: Functionalist Approaches Explained. Manchester: St. Jerome Publishing.

ちなみに、ざっくりいうと、「Documentary translation(記録としての翻訳)」は、原文をそのまま写し取ったような翻訳で、「Instrumental translation(道具としての翻訳)」は原文のコミュニケーションの意図を優先した翻訳です。1980年代からのトランスレーション・スタディーズではスコポス理論など、コミュニケーションの目的を重視した翻訳理論が生まれますが、それの流れに汲みするものだと思います。

最近(といっても10年前ですが)では、以下のような本も出版しているようです。

  • Nord, C. (2005). Text analysis in translation: Theory, methodology, and didactic application of a model for translation-oriented text analysis (2nd ed.). Amsterdam: Rodopi.

今回読んだ以下の論文では、このNord (2005)の枠組みを外国語教育で翻訳スキル・コミュニケーションスキルの向上のために利用しようというものでした。

  • Károly Adrienn. 2014. Translation in foreign language teaching: A case study from a functional perspective. Linguistics and Education, 25. 90-107.

研究対象となったのは、ほぼ翻訳経験のないハンガリーの大学の英語学の学部生です。分析対象のデータは、学生が実際に行ったEU文書(3点)の翻訳と、学生への半構造化インタビュー(semi-structured interview)でした。

結果としては、(ざっくり過ぎて申し訳ないですが)学生の文化間の気づきなどを促せたり、個々の学生の問題点が分かったりするなど、この翻訳授業は有益なものであったようです。実際にこういう活動を教室に取り入れたいという場合には、参考になる論文なのではないかなと思います。