結束性(cohesion)と一貫性(coherence)の違いについて

この記事では、結束性(cohesion)と一貫性(coherence)の違いについて説明します。

特に書きことばのディスコース分析・テキスト分析などでよく使われる概念です。

また、アカデミックライティングなどのライティング授業でも取り入れられることがあります。

 

結束性(cohesion)と一貫性(coherence)の違い

結束性も一貫性も文の結びつきをいうときにいいますが、以下のように説明されます(衣畑他 2011, p. 170)。

 

  • 結束性(cohesion):文と文の意味的な関係
  • 一貫性(coherence):(文章の)内部において統一した文脈を保つこと

 

ざっくり言ってしまうと、結束性はある文とある文のつながりという、よりミクロレベルの話になります。

一貫性は文章全体の意味の一貫性という、マクロレベルの話です。

 

この2つを厳密に分けることは難しいのですが、違いについて、詳しく見てみます。

 

結束性

結束性は、ある文とある文をつなげる意味的な関係です。

例えば、以下のような2つの文がある場合、なぜこの2つの文が別々の話でなく、つながった文だと思うのでしょうか?

おばあさんが川に洗濯にいったら、が流れてきた。
②家に帰って、おばあさんそのを食べようとしたら、中から男の子が出てきた。

この2つの文ですが、この2つの文をつなげるのに大きな役割を果たしているのは「その」という指示語(こそあど言葉)です。

指示語は、ある文と別の文をつなげる役割があります。それによってつながった文と文の意味的関係が結束性です。

 

また、上記の例の場合、指示語だけでなく「おばあさん」「桃」が繰り返し出てきていることなども、文の結束性に寄与していると考えられます。

もし上記の②の文を「家に帰って、私がそのりんごを食べようとしたら」と変えてしまうと、上記①と②の意味的関係性がなくなってしまいます。

 

接続詞も文と文をつなげる機能があります。

鬼は桃太郎に襲い掛かってきた。しかし、桃太郎は鬼に臆することなく、立ち向かった。

「しかし」というのは逆接の接続詞ですが、この接続詞があることで、直前の文と直後の文がつながっています。

 

上記のように、語彙・文法要素でつながった文と文の意味的関係が結束性です。

一貫性

一貫性は、(文章の)内部において統一した文脈を保つことを言いました。

全体的に文章の構成がしっかりして、まとまりがあると、読み手・聞き手は簡単に理解することができます。

一貫性は、このような文全体の首尾一貫性のことを指します。

また、一貫性は、読み手/聞き手が文章を理解できるかどうかにも関係します。

同じ文章でも、読み手がそのトピックについての背景知識があるかないかで、読み手の理解度も変わってきます。

(つまり、ある読み手/聞き手にとっては、一貫性のあるものでも、別の読み手/聞き手にとっては一貫性を感じられない可能性もあります。)

 

結束性は、基本は語彙・文法的要素に着目しますが、一貫性は語彙・文法などの言語要素のみならず、読み手/聞き手との共有知識等の非言語要素も考慮にいれます。

 

まとめ&ご興味のある方は

結束性と一貫性について簡単に紹介しました。

以前、結束性は「れんがとセメント」、一貫性は「家」と考えるといいと教えてもらったことがあります。

一貫性は家全体を見ているというイメージだそうです。

結束性は、その家を構成するレンガ、そしてレンガ同士を結び付けるセメントというイメージです。

 

 

  • Halliday, Michael Alexander Kirkwood, and Ruqaiya Hasan. Cohesion in English. Routledge, 1976.

この本はずいぶん古い本ですが、結束性の研究の嚆矢となった本です。一貫性・結束性関係の論文でよく引用されています。