言語景観とは?言語景観の特徴・言語景観について知りたい人のための参考本

言語景観とは

私達の身の周りは看板や標識、ポスター、案内等で溢れています。

特に意識をしていなくても、目に入ってくるものですが、これらがどの言語で書かれているかを観察することで、その地域の特性がわかります。

 

例えば、国内の日系ブラジル人の集住地域だと、ポルトガル語で記載された看板なども多くみられるでしょう。

観光地だったら、複数の言語で記載されている看板・案内が多くなると考えられます。

また、どの言語がどの順序で記載されているかによっても、よく来る観光客の言語背景がわかるかもしれません。

 

言語景観は、英語ではlinguistic landscapeと言います。公共空間における言語使用を研究する分野で、2000年ごろから研究数が増えています。

2015年には「Linguistic Landscape. An international journal」という学術誌も発刊されています。

 

この記事では、言語景観の特徴と参考文献(英語・日本語)について紹介します。

 

言語景観の特徴

言語景観の特徴

ロング・斎藤は「言語景観から考える日本の言語環境―方言・多言語・日本語教育」で、言語景観を「周りの看板類の性質によって当該地域の住民が生活する空間がどのように形成されているか、という社会言語学的・社会心理学的現象」(p. 10)と言っています。

 

また、「言語景観」の特徴として以下の4つを挙げています。

1.言語景観は視覚的な情報であり、聴覚的な情報ではない。

2.言語景観は公的な場にみられる文字言語であり、私的なコミュニケーションではない。

3.言語景観は不特定多数の読み手に発されるものであり、特定の個人宛てに書かれたものではない。

4.  言語景観は自然に、受動的に視野に入るものであり、意識的に読まなければならないものではない。

「言語景観から考える日本の言語環境――方言・多言語・日本語教育」p. 10-11を一部省略した上で抜粋)

 

言語景観というのは、自然と目に入ってくる、不特定多数を対象にした視覚情報ということですね。公共空間にあるものが中心になります。

雑誌や新聞の記事の場合は、自分が能動的に読もうとして見るものなので、言語景観には入りません。

また、自分宛に届いた手紙なども、言語景観には入りません。

 

言語景観研究の例

言語景観研究でよく見るのは、その地域にある公共・私的表示でどの言語がどのくらい使われているかを考察したものです。

特に、人の移動が活発な、都市の景観を調べるものが多いです。

 

言語景観は、言語の地位等とも密接に関連しているため、言語政策や言語イデオロギーと関連して論じられることも多いです。

 

例えば、Cenoz and Gorter (2006)の論文では、 オランダのフリースランド州とバスク地方という、マイノリティ言語が話されている2つの地域での言語景観を分析していました。

そして、マイノリティ言語とマジョリティの言語、そして国際語となっている英語の関係を考察していました。

 

David and Manan(2016)は、マレーシアのセランゴール州のプタリン・ジャヤの言語景観を調査しています。

マレーシアは多民族国家で、マレー語、英語、中国語、タミール語などが使用されていますが、マレーシア政府はマレー語重視の政策をとっています。

公共表示ではマレー語を他の言語より30%大きく、目立つように書くことなどを、政府は定めているそうです(David and Manan 2016, p. 6)

論文では、店の看板等がこのマレー語重視の政策にどのぐらい従っているのかを分析していました。

(一部の店では、英語をより大きく表示するなどしている店もあったようです。)

 

言語景観とセミオティック(semiotic)景観

言語景観というとあくまで視覚情報である「言語」を中心にしています。

ただ、景観というのは、「言語」だけで成り立っているわけではありません

 

色や形などからわかる非言語情報も多く存在しています。視覚だけではなく、匂いなどの嗅覚や、触り心地などの触覚の情報も、景観について多くのことを伝えてくれます。

 

さらに、景観というのは、看板のような静止物だけに限りません。

バスのチケットやチラシなどの持ち運びできるものや、スクリーンに映し出された映像など、刻々と変化するものもあるでしょう。

 

このような非言語コミュニケーション、建築物や周りの環境などを含めて分析するものを「semiotic landscape(セミオティック景観)」といいます(Jaworski and Thurlow 2010)。

また、そこにいる人達が、どう情報を解釈し、使用しているかなど、使用者の視点を分析に含めることもあります。

 

なお、semioticというのは「記号」という意味です。日本語で「記号」というと、図形や符号を連想してしまいそうですが、その意味ではありません。

言語・非言語を問わず、人間が何らかの意味付けを行っているものというニュアンスが強いと思います。

 

言語景観について知りたい方のための文献

言語景観について詳しく知りたい方には、以下の本がおすすめです。

  • Shohamy, Elana, and Durk Gorter. “Linguistic landscape.” Expanding de scenery. Nueva York: Routledge (2009).

編者のShohamyは言語政策などでも著名です。理論的視点や、方法論(とその課題)、実際の言語景観調査などが含まれています。言語景観の概観をつかめると思います。

 

  • ダニエル・ロング、 斎藤敬太(2022) 言語景観から考える日本の言語環境――方言・多言語・日本語教育. 春風社

日本各地での言語景観調査の結果をまとめた本です。

敬語、方言の使用や、複言語使用地域での言語使用、授業での言語景観の活用法など、幅広いトピックを扱っています。

もし言語景観研究を考えている人がいたら、やり方など参考になるのではないかと思います。

 

  • 磯野英治 (2020) 言語景観から学ぶ日本語.  大修館書店

これは上級日本語教育や異文化コミュニケーション、社会言語学のクラス等で使える教材です。

言語景観を通して、「言葉」のしくみや役割について15回のレッスンを通して学べるようになっています。授業で言語景観を使ってみたい人には役に立つと思います。