人種と言語教育について(Von Esch, Motha, & Kubota 2020)

言語学習と人種について

最近、応用言語学(特にアメリカ)の講演で人種をテーマにするものが増えており、気になっていたので、人種と言語教育についてまとめた以下の論文を読んでみました。

(2021年5月現在、こちらから無料でアクセスできます)

 

この論文では2006年からの人種関係の論文を概観していました。

言語教育で人種について明示的に言及しだしたのはここ十年ぐらいだそうですね。

契機となったのは学術誌TESOL Quarterly の人種と英語教育を扱った特別号と、Curtis & Romneyの有色人種の英語教師者のナラティブを集めた「Color, Race, and English Language Teaching: Shades of Meaning」だそうです。

 

この論文では、人種というのは社会的構成概念であり、人種の境界は時代や地域によって違うことや、ジェンダー、階級、セクシュアリティ、能力、言語、文化等とも密接に関わり合っていること、「人種」が言語教育に組み込まれていることなどを指摘していました。

 

また、人種と言語教育については以下のような5つのテーマが見受けられるといっています。

(拙訳です。意訳もあるので、詳しくは原文をご覧ください)

  1.  標準語イデオロギーと人種ヘゲモニー
  2.  人種(白人)と結び付けられた理想化されたネイティブスピーカー
  3. 言語と言語話者の人種ヒエラルキー
  4. 人種化と教師のアイデンティティー
  5. 教育・教育実践に対する人種中心のアプローチ

この論文では、このそれぞれのテーマの論点を説明していました。

 

ご興味のある方は

今回の論文の著者の一人のSuhanthie Mothaは、人種関係の論文や発表等でよく引用されています。

Kubotaについては本ブログでも何度か紹介させてもらっていますが、批判的応用言語学で有名な研究者です。

 

人種と言語教育に興味のある方は、以下のような本も出版されています。

  • Motha, Suhanthie (2014) Race, Empire, and English Language Teaching: Creating Responsible and Ethical Anti-Racist Practice.  Teachers College Press

 

  • Kubota, Ryuko, and Angel Lin. “Race, culture, and identities in second language education.” Race, culture and identities in second language education: Exploring critically engaged practice (2009): 1-23.

 

  • 久保田 竜子(2015)「英語教育と文化・人種・ジェンダー (久保田竜子著作選2)」くろしお出版