Scollon et al.の異文化間コミュニケーションに関する本の第4章について

xiahkiさんから、以前紹介したScollon et al. (2011)の異文化間コミュニケーションに関する本の第4章についても説明がほしいとのコメントがありました(xiahkiさん、コメントありがとうございました)

  • Scollon, Ron, Suzanne Wong Scollon, and Rodney H. Jones. Intercultural communication: A discourse approach. John Wiley & Sons, 2011.

discourseとDiscourseについて

この章では、小文字の「d」で始まる discourseについて扱っています。

これについて理解するには、ディスコース研究の流れを知る必要があると思います(詳しくはこちら)。もともとディスコース研究は「単語」や「文」より大きい単位(書き言葉だと段落や文章、話し言葉だと話の流れ・対話)を扱うものが多く、文と文、発話と発話のつながりを調べるものが中心でした。その場面場面で使われる発話に着目したディスコース研究を、小文字の「d」でdiscourseといっています。

その後、ディスコース研究は、社会信念やイデオロギー、価値観が言説によってどう構築されるのかなども研究対象になるようになります。これを大文字の「D」でDiscourseとしています。

この章で扱っているのは、小文字の「d」のdiscourseの方で(特に書き言葉でなくて話し言葉)、どうして私たちはある発話が前の発話と関係しているとわかるのか、どう我々はディスコースを理解しているのかという疑問に取り組んでいます。そして、私たちが発話と発話の間のつながりを理解する際に使う手がかりとして、以下の4つの要素をあげています。

  1. Cohesive devices
  2. Cognitive schemata and scripts
  3. Prosodic patterning
  4. Conversational inference

これを一つ一つ見ていきます。

Cohesive devices

「cohesion(結束性)」とは、文と文をつなぐために必要なもの、「coherence(一貫性)」は文章全体をまとめるために必要なものと言われることが多いですが、この文と文をつなぐために必要な「cohesion」を作り出すものを「cohesive devices(結束性要素)」と言っています。

Cohesive deviceの例としては、英語での指示語、動詞、接続詞などがあります。

例えば「he」という人称代名詞(指示語)を使うと、その前にだれか「男性」のジェンダーの人について話していたんだろう、と前の文・発話とのつながりを予測することができます。また、「そして」「だから」などの接続詞、「because」などの原因と理由を表す言葉なども、前の文・発話の存在があるのだということを示す手がかりとなり、cohesive devicesとして挙げられています。

Cognitive schemata and scripts

認知スキーマのことですが、これは我々が持っている一般的知識のようなものです。

例えば、レストランに行けば、多少違いはあれど「席に座る–>注文–>食事が来る–>食べる–>精算する」という流れになるだろうという知識を持っています。

なので、例えば、ある人が注文していたら、「その後食事が来るんだろうな」と、前後の発話との関係性を予想・理解することができます。

その他にも「ありがとう」といえば「どういたしまして」というというように、セットで現れるような表現(adjacency sentences(隣接ペア))についての知識も発話と発話のつながりを理解する助けとなります。

Prosodic patterning

prosodic patterning、つまり話すときのイントネーションやタイミング(ポーズの入れ方)などもディスコースを理解する手掛かりになると言っています。

例えば、「私が払ったんです」といったときに、「私」に力を入れていったとすると、その前に誰が払ったか問題になっていたのではと、前の発話とのつながりが想起されることになります。

Conversational inference

Gumperzの出した概念で、会話中に行う推測のことです。会話というのは曖昧なもので、不確定な要素も多いです。なので、我々は会話の中で、常に前の発話をもとに推測をし、それを基に次の発話をし、そして、その次の発話を基にさらに推測をし、その推測を基にその次の発話をするというプロセスを行っているといっています。この推測のプロセスそのものがコミュニケーション(とミスコミュニケーション)の重要な要素だと言っています。

その他の本の紹介

この第4章に書いてあることは、会話分析の入門書など読むと、わかりやすくなるのではないかなと思います。

  • 高木智世・細田由利・森田笑(2016)「会話分析の基礎」ひつじ書房.

↑日本語でも入門書は数冊、出版されているようです。(上の本は読んだことはないですが)

 

異文化コミュニケーションにおけるディスコース分析については以下のような本もあります。

  • ピラー, イングリッド (2014)「異文化コミュニケーションを問いなおす: ディスコース分析・社会言語学的視点からの考察」創元社