「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic)」の違いについて

この記事では、「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic )」の違いについて説明します。

 

「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic)」の違い

「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic )」という用語は語用論系の論文を読んでいると頻繁に出てきます。

「語用言語学的/社会語用論的誤り(pragmalinguistic/sociopragmatic failure)」、「語用言語学的/社会語用論的能力(pragmalinguistic/sociopragmatic competence)」や「語用言語学的/社会語用論的規範(pragmalinguistic/sociopragmatic norms)」などという使われ方をします。

 

この2つは以下のような違いがあります(参考:石原・コーエン 2015)

  • 語用言語学的(pragmalinguistic): 語用論上の基本的に言語的側面。ある状況での効果的で適切な言語形式の使用に関係する。
  • 社会語用論的(sociopragmatic):語用論上の文化・社会的側面。ある状況で何が適切な行動かについての知識・理解に関係する。

 

以下、この2つをもう少し例を出しながら紹介します。

語用言語学的(pragmalinguistic)

語用言語学的(pragmalinguistic)というのは、言語的な側面に関するものです。

具体的にいうと、ある状況で、自分の意図を伝えるときに、どの程度効果的に適切な言語形式を使えているかという点に関係します。

ただ、「語用言語学的」と「語用」がついているとおり、語用言語学的というのは、「文法の正確さ」ではなく「語用論的な適切さ」に関係します。

 

例えば、日本語を教えているとき、初級の学習者に「先生は私の宿題をチェックしたいですか?」と言われることがあります(宿題を訂正してほしいという依頼の場面です)。

「先生は私の宿題をチェックしたいですか?」というのは、文法的には間違えていないといえるでしょう。

ただ、「宿題をチェックしてください」という依頼場面で使う表現としては一般的ではありません。

適切さという意味では、適切でないと判断されることのほうが多いと考えられます。

依頼のときは、「宿題をチェックしてください」か、「宿題をチェックしてもらえませんか?」などの表現を使う方が一般的だと考えられます。

依頼の状況で自分の意図(=宿題をチェックしてほしい)を伝えるときに、効果的な言語形式を使えていないといえるので、語用言語学的な側面に関係している使用といえると思います。

 

社会語用論的(sociopragmatic)

社会語用論的(sociopragmatic)というのは、社会・文化的な側面に関するものです。

具体的にいうと、ある状況において何が適切な行動かについての知識・理解という点に関係します。ある言語の社会規範・文化規範に対する知識・理解というニュアンスで使われることが多いと思います。

 

例えば、私の経験ですが、学期末に英語母語話者の学生がわざわざメールをくれたのですが、その中に「先生は、この学期、とてもよくがんばりました」という記述がありました。

「ああ、日本語ではこういう言い方はあまりしないな」と思った記憶があります。

勿論、その人との関係性にもよりますが、日本語では、目上の人に対して「よくがんばりました」など言って、褒めることはしにくいのではと思います(褒めるとしても、「大変勉強になりました」など違う表現のほうを使うほうがより一般的だと思います)。

 

このように、「褒める」という行為に関する、このような社会文化的規範の認識の違いは、社会語用論的側面に関するものといえます。

 

語用言語学的(pragmalinguistic)と社会語用論的(sociopragmatic)の関係性

ただ、この二つは対立するものでもなく、密接にかかわっているので、識別に迷うこともあります。

 

例えば、上記の「私の宿題をチェックしたいですか?」の例の場合、その言語表現に着目した場合は、語用言語学的側面と言えると思います。

ただ、言語表現ではなく、日本語で目上の人に依頼する場面で、どのくらいの丁寧度や直接・間接度で話すのが適切かを理解しているかという点になると、社会文化規範の理解に関わってくるので、社会語用論的側面に関するものと言えます。

 

「先生は、この学期、とてもよくがんばりました」という褒めるの例の場合も、「褒める」行為に関する日英の規範の違いを考えた場合は、社会語用論的側面に関するといえると思います。

ただ、「You’ve done a very good job this semester!」みたいな気持ちを伝えたい場合は、日本語だと「よくがんばりました」でなくて、「今学期、先生のおかげでたくさん学ぶことができました」みたいな表現を使うことが多いなど、「褒める」際の言語形式に着目した場合は、社会語用論的というより、語用言語学的と言えると思います。

 

言語形式か、社会文化的要素のどちらにフォーカスするかみたいなところもある気がします。

 

「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic )」の用語の由来

なお、この「語用言語学的(pragmalinguistic)」と「社会語用論的(sociopragmatic )」いう用語は、私の知る限り、以下のThomas(1983)の論文で使われたのが最初のようです。

 

Thomas(1983, p. 99)では、語用論的な誤り(pragmatic failure)を考察するときに、以下のように「語用言語学的誤り(pragmalinguistic failure )」と「社会語用論的誤り(sociopragmatic failure )」を区別すべきといいました。

  • pragmalinguistic failure is basically a linguistic problem, caused by differences in the linguistic encoding of pragmatic force
    語用言語学的誤りは、基本的に言語的な問題。語用論的効力を言語的に変換する際に(第一言語と第二言語の)差異によっておこる
  • sociopragmatic failure stems from cross-culturally different perceptions of what constitutes appropriate linguistic behaviour
    社会語用論的誤りは、何が適切な言語的行動かについて文化間での認識の違いにより生じる

 

この区別が「誤り(failure)」のみならず、「語用言語学的/社会語用論的能力(pragmatinguistic competence)」や「語用言語学的/社会語用論的規範(pragmalinguistic norms)」といったように使われるようになったようです。

まとめ&興味のある方は

「語用言語学的(pragmalinguistic )」と「社会語用論的(sociopragmatic )」という用語について簡単にですが説明しました。何かのお役に立てれば幸いです。

 

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