金水・田窪(1990/1992)の談話管理理論について②

談話管理理論

昨日の続きです。以下の記載は、以下の英語の論文を昔まとめたときのノートを参考に記載しています。

  • Takubo, Yukinori, and Satoshi Kinsui. “Discourse management in terms of mental spaces.” Journal of Pragmatics 28.6 (1997): 741-758.

談話管理理論については以下の本にも記載されています。

  • 金水敏・田窪行則(編)(1990/1992)『日本語研究資料集 指示詞』東京:ひつじ書房.
日本語における情報に直接アクセスできるかどうかの重要性

上記の論文で、Takubo &Kinsuiは、日本語は、情報に直接アクセスできるか、間接的にしかアクセスできないかが問題になる言語だと言っています。

その例として挙げられていたものの一つは固有名詞や第三者代名詞です。

例えば、「山田」という人を話し手が知らない場合は、

  • 山田はだれ?

というより

  • 山田ってだれ?

と「って」などをつけることが多いです。そして、その後も「山田」について会話を続けるときは、直接「山田」を知らない限り、「その人」とか「山田って人」などといい続けることになります。

これは「山田」という人に直接会ったり話したりしておらず、伝聞で間接的にしか知らないことが影響していると考えられます。

 

また、感情について話すときも、

  • 私は寂しい

とは言いますが、

  • 彼は寂しい

とはあまり言わず、代わりに

  • 彼は寂しがっている
  • 彼は寂しいみたい

など「がっている」「みたい」などをつけることが多いです。

これも、「第三者の感情」に自分が直接アクセスできないからということに関連しているとTakubo & Kinsuiはいっています。

 

D領域とI領域

これらの考察をもとに(論文では他の例などももちろんあげていましたが)、Takubo & Kinsuiは「Direct」の「D」からとった「D領域」、「Indirect」の「I」からとった「I領域」というものを提示しています。

  • D領域(長期記憶):自分が直接経験した情報が格納されるところ。直接アクセスできる。
  • I領域(一時的記憶):伝聞・推量などから間接的に得た情報が格納されるところ。間接的にしかアクセスできない。

また、談話が続いている間は、I領域の情報はD領域に移すことはできないという制約もあげています。

 

D領域とI領域を用いた指示詞の説明

Takubo & Kinsuiは、D領域とI領域をもとに、指示詞を説明しようとします。

まず、これまでの指示詞(文脈指示)の説明だと、特に「ソ系」の説明では矛盾がでると指摘しています。

つまり、どういうことかというと、

この前の記事で述べたとおり、現場指示ではソ系は

  • 聞き手の近くにあるものを指すとき

に使うといわれています。つまり、基本、ソ系は、話し手から遠いこと、聞き手から近いことを言うときに使うといえます。

 

文脈指示の場合、ソ系は昨日述べた通り、

  • 話し手と聞き手のどちらかが知らない/経験していない事柄について話すとき

に使うのですが、これを分解してみると

  1. 聞き手が知っているが話し手が知らない事柄
  2. 話し手が知っているが聞き手が知らない事柄

ということになります。

上記1.の場合は、聞き手に既知(聞き手に近い)で、話し手が未知(話し手に遠い)ということで、ソ系の説明と矛盾しません。

ただ、上記2.の場合は、話し手が既知(話し手に近い)で、聞き手が未知(聞き手に遠い)ということで、ソ系の特徴とは相反してしまいます。

Takubo & Kinsuiは、「聞き手の領域」を想定するのではなく、以下のように定義することで、上記の矛盾を解決できるといっています。

  • ア系―D領域のもの
  • ソ系―I領域のもの

つまりア系というのは、自分が直接経験した領域にあるものを指すとき、ソ系というのは自分が伝聞などを通して間接的に得た領域にあるものを指すときに使うといっています。

 

 

D領域とI領域を用いた終助詞の説明

さらに、面白いのは、終助詞「よ」「ね」もこの談話管理理論(D領域/I領域)を用いて説明していることです。

  • 「ね」-I領域からD領域に情報を組み入れようとしているときに使うもの
  • 「よ」-I領域に命題を設定し、さらに推論を行わせるもの

これはどういうことかを上記の論文に出ていた例を用いて説明します。

まず「ね」の場合ですが、以下のような例があります。

  • あなたはスミスさんですね。

これは、間接的な情報でしかなかった「スミスさん」を、直接会ったことにより、直接的な情報(D領域)に組み入れようとしているプロセスだと言っています。

「ね」はI領域からD領域に情報を組み入れるプロセスなので、直接経験したD領域の情報には「ね」はつけません。

  • 私の名前は尚美ですね。

 

次に「よ」の場合ですが、以下のような例を挙げていました。

  • 君はまだ15だよ

「君はまだ15だ」というと事実ですが、「よ」をつけることで「まだお酒を飲んではいけない」「まだ運転しちゃだめだ」などそのほかの推論を呼ぶことになります。

I領域というのは、推論などで得られた情報のための領域ですが、「よ」はあえてI領域に情報を置き、さらなる推論を促す役割があるといっています。

 

 



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