語用論における緩和・和らげ表現(mitigation)についての備忘録

参考にした本

 

語用論において緩和・和らげがどう論じられているか少し調べてみました。

参考にしたのは以下の本です。

  • Schneider S (2010) Mitigation. In: Locher MA and Graham SL (eds) Interpersonal pragmatics. Berlin/NY: De Gruyter pp. 253-269.

 

緩和表現の役割

コミュニケーションをとるとき、相手に不快に思われないように、和らげ表現を使うことが多いです。

例えば、何かをしてほしいときに「これやって」といえば、きつく聞こえて、相手を不快にするかもしれません。

ただ、同じ何かをしてほしいときでも「本当にごめんだけど、これやってくれたらうれしい」などといえば、自分の立ち場を変えることなく、聞き手にも受け入れてもらえるかもしれません。

こういったものが緩和・和らげ(mitigation)の例で、実際に緩和をするときに使う表現は緩和表現・和らげ表現(mitigating devicesやmitigators)といわれたりします。

Schneiderは、緩和とは、対人関係を維持するものだといっています(p.255)。

 

Bruce Fraser

「Mitigation」という用語を語用論に取り入れたのはBruce Fraserだそうです。

  • Fraser B (2010). Pragmatic Competence: The Case of Hedging. In New Approaches to Hedging. Edited by G. Kaltenboeck et al. Emerald Publishing.

↑このような和らげについての論文も記載しています。

 

Fraserは、基本的にはスピーチアクト(要求・謝罪・断りなど、発話を通して相手に働きかけること)によるマイナスの効果を避けるために使うものとして、緩和や和らげを紹介しているようです。

例えば、食事の誘いを断るときに「あなたとはいきたくない」とはっきりいうと、角が立つので、「本当は行きたいんですけど..」という表現を入れることがあります。

これは断りによるマイナス効果を小さくすしていると言えます。

 

Claudia Caffi

Caffiは、mitigationの概念をもっと拡大させ、あらゆる会話におけるリスクを避けるための、すべてのストラテジーとしてmitigationをとらえています。

  • Caffi, C. (2005). Mitigation. Brill.

 

また、実際の緩和表現を3つに分けています。

bushes

bushesは「茂み」という意味ですが、「実際の発話の内容」に関するものです。具体的には、会話の内容を少しぼやかすものといっています。

たとえば、「Helloは日本語で『こんにちは』に当たる」というときに、「たぶん」をいれて「Helloは、たぶん日本語で『こんにちは』に当たる」と、少し内容そのものの正確性をぼやかすような表現をすることがあります。このような表現のことをbushesと呼んでいます。

 

hedges

「ヘッジ」はよく使われる表現ですが、相手に働きかけるときに使う和らげ表現です。

たとえば、相手が断りやすい状況を作るため、要求するときに「~して!」じゃなくて、「できれば~くださいませんか」といって丁寧な表現にしたりするのがその例だと思います。

 

shields

shieldsは、「盾」という意味ですが、これは「現在行われていること」や「私」から少し距離を置くときに言います。

どういうことかというと、「私はそう思う」という代わりに、「ニュースでこういっていた」とあたかも別の人の意見としていったり、「そういわれている」と受け身をつかうことで、「私」という立場から、一歩引いたような、距離を置くような言い方をするものです。

 

まとめ

緩和・和らげについて少しですが記載しました。

Caffiの「shields」などは確かに、普段「緩和・和らげ」といって思い浮かべるようなものとは少し違う気がしますね。

他にもどんな議論がなされているか、また調べてみようと思います。