語幹(stem)、語基(base)、語根(root)の違いについて

語幹・語基・語根

語幹・語基・語根は形態論で使われる用語です。

捉え方はいろいろあるのですが、以下のように説明されることが多いと思います。

  • 語幹(stem):屈折接辞を除いた後に残る部分、活用しない部分
  • 語基(base):語を形成するときに基礎となる、意味の中心的部分
  • 語根(root):すべての接辞を除いたあとの、一番小さい基本的な意味の部分

これだけだとわかりづらいと思うので、一つずつ例を出しながら説明したいと思います。

語幹(stem)

語幹(stem)は、すべての屈折接辞を除いたあとに残る部分のことをいいます(Lieber 2015)。

屈折接辞というのは、文法的な機能を担っている接辞と理解するとわかりやすいと思います。

英語だと、複数形の「-s 」、過去形の「-​ed」、現在進行形の「-ing」、三単現の「s」や、比較級の「er」などが屈折接辞です。

日本語だと、動詞の活用語尾である「食べれば」の「ば」、「食べて」の「て」、「食べた」の「た」などが屈折接辞です。

 

この屈折接辞を除いて残っているものが語幹です。

日本語の場合は、屈折接辞が基本は活用語尾であらわされるため、日本語教育では語幹が「活用によって変わらない部分」と説明されることも多いです。

語幹の例は以下のようなものになります。下記の→の右側に記載しているものが語幹です。

  • runs → run
  • played →play
  • agreements →agreement
  • 食べる → 食べ
  • 読めば → yom

 

ちなみに「読めば」の語幹が「yom」になっているのは、「読む」のような五段活用動詞の場合、「読む(yomu)」「読ば(yome)」「読ない(yoma)」と「yom」の後の母音は変わるからです。

五段活用動詞のことを子音語幹動詞といったりもしますが、それは語幹の末尾が「yom」のように子音で終わるからです。

 

語基(base)

語基は、語を形成するときに、意味的に中心になる部分という意味で使われることが多いです(Katamba and Stonham 2006)。

語幹とも似ているのですが、語幹は「活用によって変わらない部分」と言われることもあるように、語幹は基本は屈折接辞を取り除いた部分を指すときに使われます。

語基は屈折接辞に限らず、他の派生語を作るための接辞なども取り除いたものです。そして、様々な合成語を作るときに基幹となる部分という意味で使われます。

 

例えば、「おもしろみ」という名詞の場合、「おもしろ」+接尾辞「み」で構成されています。このとき「おもしろ」というのが語基になります。

「不可能」の場合は、接頭辞「不」+「可能」にわけられますが、意味の中心となるのは「可能」のほうなので、語基は「可能」になります。

語基の例は以下のようなものになります。下記の→の右側に記載しているものが語基です。

  • actor → act
  • unhappy→ happy
  • illegal → legal
  • 楽しさ→楽し
  • ほしがる →ほし
  • 運び屋 → 運び
  • 大地震 → 地震

解釈の違い

何を語基と考えるかについては、解釈の違いがあります。

例えば、nationとは、「nat(生まれる)」+接尾辞「ion」から構成されています。

このとき、語基は、意味の中心的な部分として「nat」と考えられます。「nat」に「ion」をつけて語を形成したということになります。

 

では「nation」に関連する「national」や「nationalism」という語はどうでしょうか?

nationalの場合、「nation」という語から「al」を付けて新たな語にしたと考え、新たな語のベースになった部分として「nation」が語基と考えられます。

また、nationalismの場合、「national」から「ism」をつけて新たな語が作られたと考え、新たな語のベースになった部分として「national」が語基と考えられます。

 

英語の形態論の教科書などでは、語基について上記のような説明がされることがでは多いと思います(例:Katamba and Stonham 2006)。

 

ただ、「nation」、「national」や「nationalism」の語基はいずれも「nat」と考える人もいるようです(下記の語根と同じと考えていいと思います)。

語基については、解釈が違うことがあるので、注意が必要だと思います。

 

③語根(root)

語根(root)は、あらゆる接辞を取り除いた後に残る、一番小さい基本的な意味の部分です(Lieber 2015)。

「根(root)」という言葉でもわかるとおり、根っこになる部分というイメージだと思います。

上記の「national」、「nationalism」、「international」などの言葉の場合、あらゆる接辞を除いた後に残るものは「nat(生まれる)」です。

なので、上記3つの語の語根はいずれも「nat」になります。

 

語根の例は以下のようなものになります。下記の→の右側に記載しているものが語根です。

  • import, export, portable, porter等 → port(「運ぶ」という意味の語根)
  • partition, partner, partial, particle, partnership 等 → part (「別ける」という意味の語根)
  • 煙・煙る・煙い → 煙
  • さらさら・さらっと・さらり → さら

なお、日本語の場合「語根」が何を指すのかは結構難しい問題です。

 

英語の場合は、例えば「語根で覚える コンパスローズ英単語」といったように、語根から語彙を効率的に覚えようという教材もありますね。

まとめ

語幹、語基、語根の用語についてまとめました。

この用語は言語学の入門書などでもよく紹介されています。

形態論の入門書では紹介されている概念かと思いますので、詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。

  • Lieber, Rochelle. Introducing morphology. Cambridge University Press, 2015.
  • 漆原 朗子 (編) . 形態論 (朝倉日英対照言語学シリーズ). 朝倉書店. 2016