言語学におけるヴォイス・態(voice)とは何か

ヴォイス(態)とは?

ヴォイスは、アスペクトやテンス、モダリティなどと並ぶ文法範疇のことです。「態」とも言います。

ヴォイスは、ある出来事をどの立場から表現するかということに関わる文法カテゴリーです(庵 2012, p. 98)。

詳しく言うと、ヴォイスは、ある行為の参与者(動作主、対象など)のうち、何を中心にして文を組み立てるのかを、動詞との関係で示すものです。

 

これだけだとわかりにくいと思いますので、例を出して考えてみます。

この2つの例を見てください。

  1. AさんはBさんを褒めた。
  2. BさんはAさんに褒められた。

上記の①と②の文は、客観的な出来事は同じです。

意味的には、どちらの文も、「褒める」という行為を行った人(「動作主」といいます)はAさんで、「褒める」という行為の対象(「被動者」や「対象」と言います)はBさんです。

では、この2つの文の違いはどう説明できるのでしょうか。

このときにでてくるのがヴォイスです。つまり、この2つの文は、どうこの事態を表すか、誰を中心に文を作るかというヴォイスという面で異なっています。

 

①の文は能動態(active voice)で、②の文は受動態(passive voice)が使われています。

ヴォイスが違うことによって、(a) 動詞の形態や、(b) 行為の参与者(「Aさん」と「Bさん」)の文法関係も変わってきます。

まず、(a) 動詞の形態については、①の文と②の文で「褒める」と「褒められる」という違う形が使われています。

また、(b)「Aさん」「Bさん」といった名詞句が担う主語・目的語といった文法関係も違います。

①の場合は、Aさんが主語、Bさんが目的語、②の場合は、Bさんが主語、Aさんが目的語になっています。

 

ヴォイスが代わることによって、名詞句(「Aさん」「Bさん」)の担う意味役割と、文法(主語か目的語かなど)との関係が変わります。

能動態 vs 受動態

この記事の最初で、ヴォイスとは、ある行為の参与者(動作主、対象など)のうち、何を中心にして文を組み立てるのかを、動詞との関係で示すものと書きました。

この点について、ヴォイスと言ったら必ずといっても出てくる、能動態と受動態を例にもう少し詳しく見てみます。

能動態の場合

①の「AさんはBさんを褒めた」という文は能動態です。

能動態の場合は、主語の位置にある「Aさん」(動作主)を中心にして文が組み立てられています。

 

また、動詞は「褒める」で基本形が使われています。

動詞の基本形を受けるヴォイスを「無標のヴォイス」と言います。

ちなみに、無標というのは、言語学の用語で、一般性が高い言い方という意味です。(詳しくは「言語学における有標・無標とは何か・有標性について」をご覧ください。)

能動態は、無標のヴォイスになります。

能動態の場合、動作主が主語、被動者(動作の対象となる人)は目的語に置かれます。

動作主(主語)の行為の影響が被動者に及ぶことという意味になります。

機能としては、他の参与者(被動者)に比べて、動作主にスポットライトが当たっているような感じになりますね。

受動態の場合

②の「BさんはAさんに褒められた」という文は受動態です。

受動態の場合、被動者(動作の対象となる人)である「Bさん」が主語に置かれており、「Bさん」(被動者)を中心にして文が組み立てられています。

動詞は「褒められた」という受け身の形を使っています。日本語の受動態の場合は、「褒める」が「褒められる」と受身形が使われています。

動詞の基本形でない形のヴォイスは「有標のヴォイス」(一般性の高くない言い方)と言います。

 

受動態の場合、被動者は主語、動作主が目的語に置かれます。助詞も変わっています。能動態では「Bさんを」とヲ格でしたが、能動態では「Aさんに」と二格が使われています。

被動者を主語に置くことによって、動作主ではなく、被動者にスポットライトが当てるような感じになります。

また、意味としては、被動者(主語)が他の参与者の行為によって影響を被るという意味になります。

 

その他のヴォイス

そのほかのヴォイスとしては、以下のようなものがあります(どこまでをヴォイスの範疇にするかは意見もわかれます。)

  • 使役態(causative voice)(例:「AさんはBさんに歌わせる」)
  • 使役受動態(causative passie voice)(例:「BさんはAさんに歌わされる」)
  • 自動詞と他動詞の対応(例:「窓が開く」、「窓を開ける」)
  • 授受動詞(例:「私はAさんに花をあげる」「Aさんは私に花をもらう」)

なお、受動態、使役態、使役受動態などは多くの動詞で作ることができます。このように、生産性の高いものを「文法的ヴォイス」と呼ばれます。

一方、自動詞・他動詞や、授受動詞は、語彙の数が限られています。こういう生産性が低いものは「語彙的ヴォイス」と呼ばれます。

まとめ

ヴォイスについて簡単に説明しました。

まとめると以下のようになります。

  • ヴォイスは、アスペクトやテンス、モダリティなどと並ぶ文法範疇のこと。「態」とも言う。
  • ヴォイスは、ある行為の参与者(動作主、対象など)のうち、何を中心にして文を組み立てるのかを、動詞との関係で示すもの
  • 能動態・受動態はヴォイスの代表的なもの。それ以外は使役態などがよくヴォイス研究に含まれる。
  • ヴォイスが代わることによって、名詞句の担う意味役割と、文法関係が変わる。

ご興味のある方は以下の記事もご覧ください。

参考文献