忌詞(いみことば)とは何か?その意味と例について

忌詞とは?

忌詞(いみことば)とは、ある特定の場面や場所において、縁起がよくないことを連想させる表現を避けることです。

縁起がよくないことを連想させることば自体を指すこともあれば、このような表現を避けて代わりにいう言葉のことを指すこともあります。

 

現代の忌詞の例

現代の忌詞の例としては、以下のようなものがあります。

縁起がよくないことを連想させることばです。

  • 受験生を前に「落ちる」「滑る」「転ぶ」などの表現を使わない
  • 病気やお見舞いのときに「たびたび」「重なる」「長引く」などの表現は使わない
  • 「死」や「苦」につながるので、「四」や「九」の数字を使わない

 

縁起の悪い表現を避けて代わりにいう言葉としては以下のようなものがあります。

  • 会議や宴会が終わることを、「終わり」ではなく「お開き」という
  • 鏡餅を割ることを、「鏡割り」ではなく「鏡開き」という
  • 「葦」の読み方は「アシ」だが、「あし(悪し)」になってしまうので、「よし」という
  • 「おから」は「空(から)」を連想させるので、「卯の花」という
  • 「梨」は「無し」を連想させるので、めでたい席などでは「有りの実」という
  • 「するめ」は「掏る」を連想させるので、「あたりめ」という

 

また、地域・職業特有のものもあります。

大正期の秋田のマタギを扱った小説『邂逅(かいこう)の森』(熊谷 達也)では、狩猟のために山に入るために必要な数々の戒律について記載しています。マタギの戒律の中には、山の中では、女に関する言葉を言ってはいけないなど、ことばに関するものもあります。

 

昔の忌詞の例

忌詞は時代を超えて見られます。日本語の昔の忌詞として、斎宮忌詞と武家詞の中の忌詞も紹介します。

斎宮忌詞(さいぐういみことば)

斎宮忌詞は、伊勢の斎宮で、仏語関係の語や、死・病気などの不浄な語を避けて、代わりに用いた言葉のことです。

斎宮の忌詞は、9世紀初頭の『皇太神宮儀式帳』などに見られます。

以下のようなものがあります。

  • 「仏」と言わずに「中子(なかご)」という
  • 「経」と言わずに「染紙」という
  • 「寺」と言わずに「瓦葺(かわらぶき)」という
  • 「僧」と言わずに「髪長(かみなが)」、「尼」と言わずに「女髪長(おんなかみなが)」という
  • 「病」と言わずに「やすみ」という
  • 「血」と言わずに「汗」という

仏教用語が避けられていたのは、斎宮で仏教が遠ざけられていたことを示しています。

ただ、それと同時に、それぐらい日常で仏教が浸透していたことも示していると言えるようです。

 

武士詞の中の忌詞

武士詞(ぶしことば、むしゃことば)は、武士階級に特有の語彙・表現を言います。

武士詞の中には、「負け」を連想させるような表現を避け、「勝ち」を連想させる表現を使っているものがあります。

  • 敗戦して退陣することを「開く」という
  • 「討たれ」「射られ」などの受身形を避け、「討たせ」「射たせ」などの使役の形にしている。

現在の「お開きにする」という表現は、武士詞から来ているようです。

「~させる」という使役形を使うのは、受け身が「自分が(第三者の行動により)影響を被った」という意味になるからだと考えられます。使役形にして「自分が第三者に対してある事態が起こるように仕向けた」という、自分主体にしたい気持ちの表れだと考えられます。

まとめ&ご興味のある方は

忌詞(いみことば)について簡単に紹介しました。まとめると以下のようになります。

  • 忌詞は、ある特定の場面や場所において、縁起がよくないことを連想させる表現を避けること
  • 縁起がよくないことを連想させることば自体を指すこともあれば、このような表現を避けて代わりにいう言葉のことを指すこともある。
  • 斎宮忌詞や武士詞の中の忌詞など、忌詞は時代を超えて見られる。

 

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参考文献