「~を皮切りに」と「~をはじめとして」の違いについて

「~を皮切りに」と「~をはじめとして」

今回は、この「~を皮切りに」と「~をはじめとして」の違いを説明します。

 

「~を皮切りに」と「~をはじめとして」は、以下のように使われます。

  • 札幌を皮切りに、全国各地でコンサートが行われる。
  • 札幌をはじめとして全国各地でコンサートが行われる。

どちらも日本語としては問題ないですが、違いがわかるでしょうか?

この記事では、まず、「~を皮切りに」と「~をはじめとして」をそれぞれ説明した後、最後に違いについて説明します。

 

「~を皮切りに」

「~を皮切りに」は、「~をはじまりとして、次々に何かをする」という意味です。

ある事柄がはじめとなり、その後、次々と物事が発展・展開していくときや、類似の事柄がどんどん行われるときに使います。特に、イベントや活動などでよく使われます。

 

以下のような例があります。

  • この事件を皮切りに、多くの企業の不正が発覚した。
  • 豪州での発売を皮切りに、このゲームはの世界各国への輸出を開始しました。
  • 会議で、彼の発言を皮切りに、他の人も次々に文句を言った。

「不正が発覚」「商品発売」「彼の発言」が一番最初の契機になって、その後、似たような事柄(「不正」、「商品販売」、「発言」)が行われるという意味で使われます。

 

「~を皮切りに」の制約

「Aを皮切りにB」というのは、「~をはじまりとして、次々に何かをする」だと説明しました。

なので、後件が、前件と類似の事柄でないときは、使いづらいです。

 

  1. 〇ドラマの脚本の執筆を皮切りに、田中さんは様々な執筆活動をするようになった。
  2. ?✕ドラマの脚本の執筆を皮切りに田中さんは、自分の中にあるものをまとめ、発信する楽しさを知るようになった。

 

①の文は「ドラマの脚本の執筆をはじめとして、次々に似たような執筆活動を行う」という意味で、問題ありません。

ただ、②の文の「発信する楽しさを知るようになった」というのは、類似の事柄でなく、その執筆の結果、田中さんが感じたことです。

この場合は「~を皮切りに」は使いにくく、「執筆をきっかけに」など違う表現を使うことが多いと思います。

 

「~をはじめとして」

「~をはじめ(として)」は、そのグループの中の代表となるものを挙げておいて、「同じグループの他のものもみんな」と言いたいときに使います(「どんなときどう使う 日本語表現文型辞典 」(p. 431))

全体を述べる前に、わかりやすくするために、代表例を提示する感じです(「“生きた”例文で学ぶ 日本語表現文型辞典」p. 373)。やや硬い言い方ですね。

 

以下のような例があります。

  • 両親をはじめとして、支えてくださった多くの方のおかげで、この大学に合格することができた。
  • この就職フォーラムには、トヨタをはじめとして、約50社の日本企業が参加している。
  • このドラマは、アジア地域をはじめとして海外でも高い評価を受けている。

 

「~をはじめ」「~をはじめとして」の違い

「~をはじめ」という表現もあります。

「~をはじめ」は「~をはじめとして」とほとんど意味・用法が同じですが、「~をはじめとして」のほうは、後件に「~してください」「~しよう」などの働きかけの文は来にくいと言われています(「どんなときどう使う 日本語表現文型辞典 」(p. 431))

 

  • 〇今年こそ、中国語をはじめ、たくさんの言語を勉強しよう。
  • 今年こそ、中国語をはじめとして、たくさんの言語を勉強しよう。

 

  • 〇ご両親をはじめ、家族の皆様にどうぞよろしくお伝えください。
  • ?ご両親をはじめとして家族の皆様にどうぞよろしくお伝えください。

「勉強しよう」や「お伝えください」などのときは、「~をはじめとして」は使いづらいと思います。

 

「~を皮切りに」と「~をはじめとして」の違い

さて、本題の「~を皮切りに」と「~をはじめとして」の違いです。

 

一番最初の例をもう一度見てみましょう。

  • 札幌を皮切りに、全国各地でコンサートが行われる。
  • 札幌をはじめとして全国各地でコンサートが行われる。

どちらの文も使うと思います。

ただ、「札幌を皮切りに」といった場合、コンサートの一番最初は札幌で行われ、その後次々とに似たようなコンサートが他の各地でも行われるという意味になります。

「札幌をはじめとして」というと、札幌が一番最初のコンサートかどうかはわかりませんが、代表例として札幌をあげており、札幌だけでなくその他の地域でも、コンサートが行われるという意味になります。

 

 

また、以下の例を見てください。

  • ✕ この通りには、市役所を皮切りに、県庁、裁判所、公民館など様々な公共施設が並んでいる。
  • 〇 この通りには、市役所をはじめとして県庁、裁判所、公民館など様々な公共施設が並んでいる。

 

  • ✕ 両親を皮切りに、支えてくださった多くの方のおかげで、この大学に合格することができた。
  • 〇 両親をはじめとして、支えてくださった多くの方のおかげで、この大学に合格することができた。

上記の場合、「~を皮切りに」を使うのは不自然だと思います。

「公共施設」や「支えてくださった方」というグループの中の代表例として「市役所」や「両親」を挙げているケースですね。

 

まとめ

「~を皮切りに」は、「~をはじまりとして、次々に何かをする」という意味です。

「~をはじめとして」は、そのグループの中の代表となるものを挙げておいて、「同じグループの他のものもみんな」という意味でした。

 

何かのお役に立てれば幸いです。