第二言語学習理論と教授法③:クラッシェンの5つの仮説

参考書

前回の続きです。この本の第4章(p. 106-107)を読みました。以下の記載もおもにp. 106-107を参考にしています(多少加筆しています)。

  • Lightbown, Patsy M., and Nina Spada. How Languages are Learned 4th edition. Oxford University Press, 2013.

↑この本は外国語教授法などのクラスでよく教科書として使われています。

和訳版もあります。

  • Lightbown, Patsy M., et al. 『言語はどのように学ばれるか』 白井恭弘 , 岡田雅子訳 , 東京:岩波書店

チョムスキーの理論に影響されて発展したのが、1982年に発表されたクラッシェン(Krashen)のモニターモデルです。

 

クラッシェン(Krashen)のモニターモデル

このモニターモデルでは、5つの仮説を立ててます。

  • Acquisition/learning hypothesis(習得・学習の仮説)

Krashenは「習得(acquisition)」と「学習(learning)」を別個のものとしてとらえています。習得というのは、子どもが第一言語を学ぶのと同じように、言語に触れることにより自然に言語を「習得」していくというものです。逆に、「学習(learning)」のほうは、文型や文法規則などを意識的に学んでいくというものです。

  • Natural order hypothesis (自然順序仮説)

Krashenは、第一言語と同様、第二言語にも習得に順序があると考えました。
ただ、簡単に「学習」できるものが最初に「習得」できるとは限らないといっています。例えば、三単現の「s」は簡単に「学習」できるものですが、学習者が習得できるようになるまでは、かなりの時間を要すると言われています。

  • Monitor hypothesis (モニター仮説)

Krashenは、第二言語話者は、自然な会話をするときには、「習得(acquired)」されたもののみを使うと考えました。学習者が「学習(learned)」したルールや文型は、モニターとして機能し、自らの発話に修正を加えたりする際に使われると考えました。

  • Input hypothesis(インプット仮説)

Krashenは、理解可能なインプット(comprehensible input)というものが習得には重要だと考えました。理解可能なインプットは i+1とよく言われます。これはどういうことかというと、今自分が既に習得した言語レベルを「i」とすると、それよりも少し高いレベル「+1」を聞くと、習得につながるというのです。

例えば「I am a student」という文を既に習得していたとすると、次に「+1」の要素として、「I am a university student」のように「university」をプラスアルファでくわえることなどが挙げられます。この「+1」を入れることにより習得が起こると考えました。

  • Affective filter hypothesis (情意フィルター仮説)

一方で、Krashenは理解可能なインプットを受けていたとしても、必ずしも習得にはつながらないといっています。その理由として「情意フィルター」をあげています。Krashenは情意面の大切さを述べており、もし不安感やネガティブな感情があったりすると、それが障壁となり、習得が阻まれるといっています。

Natural Approach(ナチュラル・アプローチ)

Krashenの理論に基づくアプローチとして、テリル(Tracy Terrell)が提唱したナチュラル・アプローチというのがあります。

これはできる限り第一言語習得に近いような環境で第二言語を学ばせるというものです。質の高いインプットを多く聞くことに重きを置き、特に最初の方は、学習者に発話を求めることはありません。

 

Monitor Model/Natural Approachへの批判

モニター仮説については、この仮説を実証研究で検証するは無理な話だという批判(McLaughlin 1987) や、Krashenの理論の導き出し方には問題がある(White 1987)などがあるそうです。

ただ、従来の文型練習や暗記型の学習から一線を画し、「意味」や情意面に着目した点では功績は大きいと言えると思います。

Natural approachについては、カナダのイマージョンプログラムなどの結果から、理解可能なインプットを聞き続けていても、文法的間違いがいつまでも修正されずに化石化(fossilization)したり、聞き取り能力は伸びても、産出能力が低かったりなどという問題も表出してしているようです。

 

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