教育における足場かけ(Scaffolding(スキャフォールディング))とは何か

足場かけ(Scaffolding:スキャフォールディング)とは

足場かけというと工事現場の話のように思えてしまいますが、教育でも足場かけ(Scaffolding:スキャフォールディング)という用語をよく使います。

教育で「足場かけ(スキャフォールディング)」というと、学習・問題解決を促すために、大人・教師などが、ことばを使って、子ども・学習者をサポートすることを指します。

 

足場かけ(Scaffolding:スキャフォールディング)

通常、足場というと、工事現場で作業員の作業をサポートするために一時的に設置されるものです。

その建物が建設されると、この足場はなくなります。足場は一時的なものですが、建物の建設には必要なものです。

 

この足場の概念が教育でも使われます。

教育の場合、建物というのは学習者の能力にあたり、足場かけは学習・問題解決を促すために、大人・教師などが、ことばを使って、子ども・学習者をサポートすることにあたります。

学習者の能力を伸ばすために(工事現場の例だと、建物を建設するために)、第一言語習得では大人が子どもに、第二言語習得では教師等が学習者に、一時的に学習の足場を作り、学びをサポートすることが必要といわれています。

 

これだけ聞くと、「ただサポートのこと?」と思うかもしれません。

ただ、「足場かけ(スキャフォールディング)」のポイントは、①子ども・学習者がさらに上のステップへ進めるようにするようなサポートということ、さらに、②一時的に行うものということです。

 

まず、子ども・学習者が次は(足場がなくても)自分自身でできるようになるような、将来を見据えたサポートであることが必要です。

また、ずっとサポートしていたら、学習者はいつまでたっても自分でできるようになりません(工事における足場も、足場は建物を建てるためにあくまで一時的なものですね。)

なので、学習者が自立できるようにするための一時的なサポートである必要があります。

 

 

 

足場かけ(Scaffolding:スキャフォールディング)の由来と使用される文脈

現在、足場かけ(スキャフォールディング)は、社会文化理論に基づいた研究や教材でよく使われます(社会文化理論についてはLantolfの「Sociocultural Theory Second Language Learning – Oxford Applied Linguistics 」が有名です)。

社会文化理論の特徴の一つは、学習というのは教師が知識を伝達するものではなく、社会的で協働的なプロセスだと考えていることです。

 

特にこの理論に影響を与えたのはロシアの心理学者のヴィゴツキー(1896年-1934年)(ヴィゴツキーについては「ヴィゴツキー入門 (寺子屋新書)」という入門書も日本語で出版されています)。

ちなみに、彼の著作は1960年頃まで翻訳されていなかったそうですが、1980年頃から西欧で脚光を浴びるようになり、今では言語教育でよく言及されています。

 

ヴィゴツキーはzone of proximal development (ZPD)(発達の最近接領域)というのを提唱しています。

これは、学習者の現在のレベルと、教師やクラスメートのサポートによって引き出すことのできる潜在的なレベルの間のことを言います。

学習者が、教師等の手を借りて発達できる伸び幅みたいなものと考えています。

 

ちなみに、足場かけ(スキャフォールディング)という用語を最初にヴィゴツキーの理論と結び付けて考えたのは、Wood, Bruner, and Ross(1976) が「The role of tutoring in problem-solving」という論文と言われています。

この論文では、幼児がおもちゃのブロックでピラミッドを作るときに、親が、いかに子どものやり取りをする中で、子どもの興味をひきつけたり、自らモデルを提示したり、ある程度問題解決のための道を作るなどして、手助けをしているかを調査しました。そして、結果的に子どもがピラミッドを作成できるようになるような、親が行った数々の言語を使ったサポートを足場かけ(スキャッフォールディング)と呼びました。

 

この概念が言語学習でも応用されています。

例えば、日本語学習者が「ホテルに電話で問い合わせをする」というタスクをしたいと思ったとします。

ただ、ホテルに電話をしたことがなければ、電話で何を言えばいいのか、迷うでしょう。一人だとできないと思って、やらないかもしれません。

その際に、日本語の言語能力が高い教師や他のクラスメートが、「大丈夫だよ」と自信を持たせり、「~の件でお伺いしたいことがあるんですが」などの表現を教えてあげたり、実際に問い合わせる前に一緒に練習したり、その際に言葉が出てこないことがあれば、「〇〇のこと?」と言葉を探す手助けをすることで、学習者は潜在的な能力が引き出され、一人だとできなかったことが、できるようになるかもしれません。

一度うまくいくと、次からはサポートなしに、学習者一人でできるようになるでしょう。

このように、学習者と教師等がやり取りをする中で生じる、様々なサポートのことを足場かけ(スキャフォールディング)と呼びます。

足場かけをすることによって、学習者の潜在能力が引き出され、さらに上のレベルに行くことができると考えます。

 

ご興味のある方は

足場かけ(スキャフォールディング)について簡単に説明しました。

ご興味のある方は以下のようは本も出版されています。

  • Gibbons, Pauline. Scaffolding language, scaffolding learning. Portsmouth, NH: Heinemann, 2002.

この記事を作成する際にも、この本を参考にしました。