「日本の翻訳論:アンソロジーと解題」読了。明治以降から戦時中の翻訳論を原文も含めて紹介しています。

以下の本を読みました。

  • 柳父章, 水野的, 長沼美香子.(編)(2010). 日本の翻訳論: アンソロジーと解題. 法政大学出版局.

2部構成で、第1部は柳父の論文で、日本における翻訳の歴史を概観しています。漢文訓読法が西洋文の翻訳の際にも継承されていたという話や、漢字造語の話、また、翻訳が日本語に与えた影響などをまとめてありました。

個人的におもしろかったのは、造語の際に「漢字二字」から構成されていることが重要だったという指摘です。例に挙げていたのは「philosophy」の翻訳です。西周は philosophy を当初「希哲学」と翻訳していました。「希」というのはphilosophyのphil(愛する)にあたる部分で、哲学とは知識ばかりを重んじる「sophist」なのではなく、知識を「愛する(phil)」のだという意味を示すための重要な部分だったそうです。にもかかわらず、日本語ではその大事な「希」がなくなってしまい、「哲学」という翻訳が一般的になっています(p.13)。これは「漢字二字」という形を重んずる漢字造語の特徴であると言っていました。

第2部は明治初頭から戦時中までの、坪内逍遥、森田思軒、福沢諭吉、森鴎外、谷崎潤一郎などの日本の翻訳論31編を紹介・解説しています。原文の抜粋と、トランスレーション・スタディーズの視点からの原文解説で構成されています。いくつかの章しか読んでいませんが、自分1人だと原文に当たろうとはきっと思わなかったと思うので、原文に触れられるのはとても有難いと思いました。原文は正直私には読みづらかったのですが、解説のセクションで他のトランスレーション・スタディーズの理論等と結びつけて説明してくれていたので、原文を読む際の助けにもなりました。